『読売新聞』2007年1月10日付

入試最前線’07(5)
過去問共有 タブー破る


書店には、過去の入試問題を収録した通称「赤本」がずらりと並ぶ(東京の三省堂書店神田本店で) 過去に出題された入試問題を共有しようという動きが出てきた。

岐阜大学が中心になって、国公私立17大学が昨年10月下旬、来春入試から、それぞれの過去の入試問題について、自由に利用しあえる協力関係を結ぶことを宣言した。

「他大学の入試過去問題の使用は重大なルール違反というこれまでの通念、あるいは重圧からの解放」。宣言文にはそんな表現が躍る。

宣言に賛同した大学は国立が中心。医科系も多い。この宣言は、全国の約400大学に郵送され、参加を募っている。

宣言が必要だった理由を、岐阜大の佐々木嘉三副学長(66)は「そもそも、学習指導要領で出題範囲は限定されている。その中で、毎回オリジナルの良問を出そうとすると、おのずと限界が出てくる」と説明する。「その結果として、高校の学習範囲を逸脱した難問奇問が出題されたり、最悪の場合は出題ミスにつながる遠因にもなっている」





岐阜大の場合、入試問題作りは毎年、新入生を迎えてすぐの4月に「入試問題作成委員会」を組織してスタートする。作成にかかわるのは約100人で、教官全体の8分の1を占める。

作業に膨大な手間がかかる委員は敬遠されがちだ。4教科ある問題作成には1教科あたり5、6人がかかわる。このほかに、問題を点検する担当もある。学習指導要領を読み、各出版社の教科書の内容もチェックする。

他大学の問題については、出版社が発売している過去問題のパソコン用データファイルをキーワード検索するなどして、同一または類似の出題にならないよう心掛けている。

さらに、本番中や直前の出題ミス発覚に備えて「予備問題」も作成しておかなければならない。すべての作業が終了するのは9月。

幸い岐阜大では、正解が出せないなどの致命的な出題ミスや予備問題の使用に至った例はないが、毎年、2、3件は問題文の訂正を行うケースがあるという。

過去問題活用宣言大学

【国立】旭川医科、弘前、岩手、秋田、山形、宇都宮、お茶の水女子、山梨、信州、静岡、岐阜、滋賀医科【公立】名古屋市立、岐阜市立岐阜薬科【私立】順天堂、桜美林、日本医科

過去問題のデータベース化 大学入試センターは、共通一次試験(1979〜89年度)と90年度からのセンター試験の全問題をデータベース化している。問題作成者は、個々の問題についての外部評価を知ることもできる。