『西日本新聞』2007年1月8日付

専門職大学院長崎大設置へ 途上国感染症に総合対処 08年、全国初


長崎大(長崎市)は7日、エイズウイルス(HIV)やマラリア、鳥インフルエンザウイルスなど、発展途上国でまん延する熱帯病や感染症対策の専門家を養成する専門職大学院「国際保健研究科」(仮称)を設置する方針を固めた。6月にも文部科学省に設置を申請し、大学設置審議会で認められれば2008年4月に発足する。

■現地活動の企画、運営 即戦力を育成

文科省によると、国際保健分野に特化した専門職大学院は全国で初めて。

新設の研究科は2年間の修士課程で、学部を持たない独立研究科とし、入学定員は1学年12‐15人の予定。入学資格は医師や看護師の免許は必ずしも必要としないが、海外での活動に十分な英語力のほか、海外や国内の企業や病院などで数年間の実務経験があることを条件とする。

研究科の科目は国際援助概論、疫学統計、開発経済学などで構成。このほか、8カ月間前後の海外現地実習を必修とする。

長崎大は1967年に熱帯医学研究所を開設し、2005年にケニアとベトナムに海外研究室を置くなど、東アフリカや東南アジア諸国の熱帯病や感染症の研究に実績を重ねてきた。

しかし、熱帯病や感染症対策の現場では、援助資金獲得の交渉や地元住民との折衝など総合的に対応できる人材が不足しているのが現状。長崎大の新設研究科は海外の非政府組織(NGO)や世界保健機関(WHO)などの国際機関、医療機関で、医療分野だけでなく、予防接種の計画立案や地元住民への公衆衛生教育など幅広く活動できる即戦力の人材を育てるという。

片峰茂・同大大学院医歯薬学総合研究科教授(感染分子病態学)は「国際貢献を志す若者は多いが、現場のニーズに応えられず帰国する場合が多い。感染症予防に効果的なプロジェクトを多面的に立案できる専門家を育てたい」としている。

欧米に比べ人材不足

石井羊次郎・国際協力機構(JICA)保健事業担当グループ長の話

国際保健分野の第一線で活動する日本人が欧米に比べ圧倒的に少ない要因の1つとして、専門職を養成する大学院がなかったことが挙げられる。発展途上国での感染症対策で求められるのは、医療や看護の技術以上に、事業費を獲得し、企画を立案、運営、評価する総合的な能力。熱帯医学で豊富な海外研究経験を持つ長崎大の取り組みに期待したい。