『朝日新聞』2007年1月7日付

医師への道にも社会人コース 都が4年制大学院検討


大学の医学部以外の卒業生や社会人にも医師への道を――。新たな医師養成をめざす専門職大学院「メディカルスクール」の設置に向けて、東京都が07年度にも検討を始める。研究や学問よりも診療や治療の実践に比重を置き、現行より2年短い4年で医師国家試験が受けられる「バイパス」をつくる試みだ。医師法などの改正が必要になるが、都は「質の高い医師の確保は急務。医師養成のあり方に一石を投じたい」としている。

都の構想は、弁護士や検事を養成する法科大学院(ロースクール)や、公認会計士のための会計大学院などの医療版だ。モデルは臨床中心の米国のメディカルスクール。専門家の間には「別の分野を学び、いったん社会に出てから改めて医師を志す人には高い目的意識があり、患者としっかり向き合える」と指摘する声がある。

都は07年度にも外部の専門家を交えた検討会をつくり、カリキュラムや教員の確保など具体的な内容を詰めていく。都立の首都大学東京や他の大学、病院への設置を想定し、臨床教育のために都立病院の医療現場を提供することを考えている。

その前提として、医師法の改正を国に働きかける考えだ。現行では、海外の医学校の卒業生を除き、大学の医学部で規定のカリキュラムを最短6年間学ばなければ医師国家試験が受けられない。都内で先行実施ができるよう、国に構造改革特区を申請する方法も探る。

医師数は、全国的にも都市部への集中や診療科によっての偏在が進んでいる。都内でも04年までの8年間で全体数は増えたが、小児科医と産婦人科医は8%強減った。都内の総合病院のある医師は「長時間勤務や医療訴訟などに直面し、働き盛りの病院勤務医が辞めていく」と嘆く。

医療技術が高度化する中、医療訴訟の件数はここ10年間で倍増した。医師の説明責任への患者の意識も高まっている。

メディカルスクールをめぐる議論では、文部科学相の諮問機関の中央教育審議会が大学院のあり方を検討する中で議題にあげたが、医療界の慎重論を受けて結論は出ていない。都知事本局は「都が具体的な検討に入ることで、医師養成システムを考え直す機運を高めたい。目的意識の高い医師が増えれば、特定の診療科医の減少や全国的な医師の偏在解消にもつながる」と話している。

〈メディカルスクール〉 米国やカナダなどで設置されている医学教育機関。都が参考にする米国型は、一般の大学卒業生や社会人を対象にした4年制の大学院で、診療チームのメンバーとして現場体験するなど実践を重視。教養と社会性を備えた質の高い臨床医養成をめざす。日本では05年の中央教育審議会の報告書で「中期的な課題」と位置づけられたが、慎重論が出て検討は先送りされた。