『山陰中央新報』2007年1月5日付

山陰両県で看護師争奪戦


山陰両県で看護師の争奪戦が起こっている。昨年四月から看護師を多く配置すれば、病院の収入源となる診療報酬が増えるようになったためだ。競争は全国に広がり、大病院が大量募集に走る一方で、中山間地域の中小病院は確保に苦労している。地方の看護師不足に拍車がかかる懸念もあり、看護体制充実をうたった制度改定は「もろ刃の剣」となって、地方の医療を脅かしている。

昨年六月、島根県立看護短大(出雲市)に、県外の国立大付属病院が募集説明に訪れた。担当者は「今までは島根大に遠慮していたが、今回は来させていただいた」とあいさつ。仁義なき戦いの幕開けだった。

鳥取大医学部付属病院(米子市)は二年がかりで百二十人規模の採用を計画。松江赤十字病院(松江市)は来年度の採用を例年より二十人程度上乗せして五十人に、島根大医学部付属病院(出雲市)も前年比五十人増の八十人の採用を目指す。

鳥取大病院の石部裕一院長は「重症患者、高度治療が求められる患者が多く、もともと看護師は不足していた」とし、看護師を増やしても人件費がまかなえるめどが付いた今回の診療報酬改定を歓迎する。

診療報酬は、看護職員一人あたりの患者数が少ないほど段階的に報酬が多くなる。診療報酬改定では、従来最も高い報酬を得られていた患者十人(十対一)よりも手厚い、七人(七対一)の水準が新設された。

島根県立看護短大には既に東京大や京都大、都会地の民間大病院が相次いで押しかけて募集要項を配布。研修の強化や敷地内に無料マンションを用意するなど処遇面の充実を強調する病院もあるいう。

山陰の各病院も確保に懸命だ。鳥大病院は二つも対策本部を設置し、県外行脚で県出身者の呼び込みを狙い、島大病院もボーナスとは別に年間二十五万円の特別賞与を上乗せ支給する制度を新設。

松江赤十字は、院内保育所の開設時間延長などの子育て支援強化で離職防止や潜在看護師の掘り起こしを図り、配置換えも駆使して、一足早く「七対一」を達成した。

対照的に、八人の募集に対し応募がゼロだったのは、島根、岡山、広島三県境に立地する日南病院(鳥取県日南町)。「診療報酬改定の影響はあった。交通アクセスが悪く人材が集まりにくい山間地の病院は今後苦しくなる」と昨年度もゼロだっただけに不安顔だ。

一方、松江市立(同市)や島根県立中央(出雲市)などの自治体病院は、定員の増減に手間と時間がかかるため、来年度の対応が難しいという。

山陰での看護師不足は慢性的で、島根県では二〇〇六年に二百十七人、〇七年に二百五十一人の不足が見込まれながら、県内の大学・短大・専門学校で養成した看護師の半数近くが県外に流出している。

〇四年スタートの新臨床研修制度では、都市部の有力病院に研修医が集中、地方の医療機関の医師不足に拍車が掛かった。今回の改定で今度は看護師の流出が加速する恐れも指摘されており、島根県医療対策課は制度改定が地域医療に与える影響を懸念。一月に看護師の養成・確保のための検討委員会を新たに発足させ、独自調査で実態を把握した上で県として対策を打ち出す。