『秋田魁新報』社説 2007年1月5日付

社説:経済・労働の課題 企業利益の還元が必要


安倍晋三首相は4日の年頭記者会見で、憲法改正、教育再生などへの意欲を示すとともに「景気回復、構造改革の成果を実感できる年にしたい」と述べた。日本経済は戦後最長だった「いざなぎ景気」(昭和40年11月—45年7月、57カ月)を抜き、59カ月連続して拡大途上にあるとされる。

新年初の取引である大発会が行われた4日の東京証券取引所でも、好調な企業業績が続くとの期待感から輸出、内需関連株とも買い注文が広がった。

しかし現在の景気は高度成長期のいざなぎ景気の時とは違い、賃金の上昇や消費の拡大を伴うものではない。好景気は本県などの地方には波及せず、実感のない景気拡大であるといえる。昨年は労働、経済を取り巻く格差の問題が顕著になり、景気拡大の一方でマネーゲームが株式市場を混乱させるなど、現在の経済システムのほころびが表面化した。今年は社会と経済の仕組みを見直し、再構築することが求められよう。

景気拡大に伴い、昨年3月に日銀の量的金融緩和策は解除され、7月にはゼロ金利政策も解除されて利上げが実施された。長期的な安定成長を実現するには小幅な利上げが必要だと日銀が判断した通り、企業業績は回復したものの、その果実は働く人々に十分に還元されてはいない。業績回復の背景には、企業がリストラを断行してきたことや、設備投資に力を入れても賃金の伸びは抑えたためだ。

さらに、経営者は雇用の拡大には慎重な姿勢をとり、結果として企業の「一人勝ち」になった。企業内では正規・非正規社員間の賃金や雇用条件などに格差がもたらされた。そうした問題を解消する方向に向かわなければ、労働者が景気拡大の恩恵を享受することはできない。

労働政策に関しては昨年12月、厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会が労働時間規制を撤廃するホワイトカラー・エグゼンプション(適用除外)の導入を求める報告書をまとめた。一定以上の年収のホワイトカラーを対象に、勤務時間について裁量を認める一方で残業代をなくす制度だ。報告書は同審議会の労働者側委員の反対を押し切る形で提出され、政府は報告書を基に、今月召集の通常国会に労働基準法改正案を提出する方針だが、与党内でも賛否両論がある。

報告書では労働時間で成果を評価できない業務に就く人たちなどを「適用除外」対象にしているが、公明党の太田昭宏代表は2日東京都内で行った街頭演説で、与党協議会を設置して慎重に検討するよう提案した。残業代だけが問題ではないが、報告書の内容は長時間労働を助長する面が否めない。仕事の「できる」人を中心に、成果主義を一歩進める制度ともいえる。対応を誤れば格差の拡大につながりかねないことも問題だ。

安倍政権は「成長なくして財政再建なし」をスローガンにしている。成長への不安材料としては企業の過剰投資、米国経済の減速などが挙げられるが、労働が正当に評価され、企業利益が労働者にきちんと還元される仕組みをつくることにも力を注がなければならない。