『朝日新聞』 2007年1月8日付

奨学金返還、督促を強化 法的措置予告1万件


大学生らに奨学金を貸している独立行政法人「日本学生支援機構」(本部・横浜市緑区)が、奨学金を返さない人への「取り立て」を強めている。民事手続きに基づく「支払い督促の申し立て」の予告件数が06年度は1万件を超え、05年度の2倍強、2年前の二十数倍と急増中だ。長く続いた就職難が影響してか、未返還が増えていることや、独立行政法人化に伴って事業の採算性が求められるようになったことへの対策で、今後も厳しい姿勢で臨むという。

機構は特殊法人だった旧日本育英会の事業などを引き継いで04年に設立され、無利息の「第一種」と利息付きの「第二種」の奨学金を貸している。05年度の貸与者は第一種が約40万人で、第二種は約58万人。大学・短大、大学院、高専、専修学校(専門課程)の学生らが対象(高校は05年度入学分から都道府県に移管)で、05年度は大学・短大生の3.9人に1人、大学院生の2.5人に1人が利用した。

卒業後に返すのが原則だが、返還状況は芳しくない。05年度は計2575億円が返還予定だったが、未返還は約2割の562億円にのぼった。3カ月以上滞っている人も年々増えており、06年3月末で約18万5000人。同時期の貸付残高は4兆2518億円で、06年度の奨学金貸与予算7810億円の約5.4倍に当たる。

第一種の場合、06年度の大学・短大の新入生への貸与月額は4万〜6万円台。返還は原則として毎月、口座振替で行われるが、卒業後の返還年数は十数年という設定が多く、毎月7000〜1万8000円台と貸与月額より少なくて済む。ただ、延滞が1〜2年の約1800人を対象に機構が05年度調べたところ、理由は「無職・失業」が20.3%と01年度の6.5%から急増しており、就職難が響いているようだ。

機構は、口座振替制度への加入を呼びかけ、残高不足で振替ができなかった人には電話や文書で督促している。保証人らへの督促も早い段階から行うようにしたが、効果はいま一つ。返還金は新たな貸与に充てており、第一種では06年度は予算の約7割を占める。学費の値上がりもあって奨学金の希望者は増えており、機構は督促の申し立ての予告に乗り出した。

予告の対象は原則として、失業や病気による返還猶予の手続きなどをしておらず、返す能力があるとみられるのに、1年以上滞り、再三の督促にも応じない人だ。顧問弁護士名で期限を指定して予告し、期限が過ぎた場合は裁判所に申し立て、最終的には強制執行の手続きに移る。予告すれば返還する人も多く、強制執行まで至ったケースは05年度は4件だった。

機構は06年度分の予告を既に終え、件数は1万473件。4167件だった05年度の2.5倍に達した。今後も予告を積極的に行う方針で、返還できない事情を申し出れば猶予の手続きも紹介するという。吉田真・広報課長は「奨学金の恩恵を受けていた時代を思い出し、後輩が同じ状況にあることを考えてほしい」と話している。