『産経新聞』2007年1月5日付

文科省、大学教員の研修を義務化 「全入時代」へ指導力向上狙う


「大学全入時代」を控え、文部科学省は大学の教員の組織的研修(FD=ファカルティ・ディベロップメント)をすべての大学・短大に義務づける方針を固めた。「ゆとり教育」世代など多様な学生を受け入れざるを得ない大学で、教員の指導力を高めるのがねらい。既に努力義務を課しており、約75%の大学で実施されているが、専門スタッフ不足など問題を抱えており、義務化を通じて充実をはかる。

昨月22日から公布・施行した改正教育基本法では、第9条で教員の「養成と研修の充実」を新たに明記。中央教育審議会でも大学設置基準の改正を了承した。教員全員が研修を受けた場合は、大学が約16万2000人、短大が約1万2000人(平成17年5月時点)の規模となる。

導入の背景には、日本の大学が教育よりも研究を重視しており、大学教員の教育に関する評価が芳しくない事情がある。教育業界大手のベネッセコーポレーションが17年に実施した調査によると、大学の施設・設備に不満足な学生は27%と少ないのに、教員に対しては半数弱となる45%が不満を示した。なかでも「(学生の)関心に応じた指導」「教員とのコミュニケーションの機会」「授業のわかりやすさ」に不満が多かった。

さらに、大学全入時代の到来で、基礎学力が身についていない大学生も続出。高校までの基礎学力を再教育する「リメディアル教育」に力を注ぐ大学が相次いでいる事情もある。

国立では北海道大、東北大、一橋大、横浜国立大、京都大、神戸大、熊本大などがFDに関する「大学教育センター」を設置し、既に導入している。ただ、国立教育政策研究所の調査によると、大学側が設置する同様のセンターのうち、専任の教職員を置いているのは半数程度にとどまり、専門スタッフの不足が懸念されている。中教審の委員からも「FDのリーダーとなる人材がいない」「個々の大学での努力では限界がある」と財政支援を求める声がある。

このため、文科省では国立大学を中心に設置されている同様のセンターをFDの拠点として積極的に支援していくことを今後、検討する考えだ。

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【用語解説】ファカルティ・ディベロップメント(FD)

授業内容・方法を改善、向上させるための組織的な取組で、「教職員の資質開発」と訳される。具体的には教員相互の授業参観、研究会開催、新任教員のための研修会開催などの教員研修がある。設置基準の改正により、大学・短大では平成11年から努力義務となっており、大学院では今年4月から義務化される。