『読売新聞』2007年1月7日付

福教大低迷、焦り背景か…OB元校長が「予想問題」配布


福岡市立小中学校の教員採用試験問題が外部に漏れた問題で、元小学校校長(65)が作った「予想問題」が配られたのは、母校である福岡教育大(福岡県宗像市)のOBが主催する「勉強会」だった。

国立大の独立法人化で大学間競争が激化する中、同大から教員に採用される学生の割合は伸び悩んでいる。大学側もOBも受験対策に力を入れるようになっており、「過熱する受験対策が漏えいにつながった」と指摘する声が出ている。

団塊世代の大量退職に伴い、ここ数年、教員採用枠は増加傾向にある。だが福教大の卒業生のうち、教員になる学生の割合は20年前の60〜70%に比べ、ここ10年は50%強で推移。しかも約半数は非常勤講師としての採用で、正規教員になる学生の割合は低迷が続き、「教育大」ブランドに陰りが出ている。

「不況の影響で公務員志向が強まり、私学からの教員志望者が増えたため」と福教大関係者は分析する。大学側は5年ほど前から独自に特別講座などを開いているが、「大学の伝統、ブランド力を保つのは非常に厳しい状況」(福教大関係者)という。

市教委によると、OB主催の「勉強会」もこうした現状を受け、2005年度から卒業生を対象に始まった。昨年の勉強会は2次試験直前の8月20日、福岡市内の同大付属小で開かれた。

講師は漏えいにかかわったとされる元校長らOB10人。複数の教室に分かれ、2次試験で実施される「模擬指導」や「集団討論」を実際に行い、元校長が作った「予想問題」も配られた。

同大関係者によると、同窓会の会合にはここ数年、教員採用試験を受験する現役学生が顔を出し、OBが試験対策のアドバイスをするようになった。教員を退職したOBが現役校長や教諭らに声をかけ、学生のために模擬面接を行うこともあったという。

同大のOBや関係者は背景として独立法人化などを挙げる。「法人化に伴い、生き残りのため競争意識が高まっている」「最近は一般企業に就職する学生が多く、教育大の存在意義が揺らいでいる」と本音を漏らす。

小学校教員課程を持つ西南学院大(福岡市早良区)では10年以上前から、教員有志が授業とは別に集団討論のやり方などを指導している。担当する教授は「一般大学では教員志望の学生を集めるため相当の努力をしている。その結果、採用試験で高い合格率を達成している。それが福教大関係者の焦りを生んだのではないか」と推測する。

福教大の河鍋好一・副学長は「有能な教員を育てるため努力してきたが、卒業生がこのような不正を起こし、残念で驚いている。信頼回復のため努力したい」と話している。

沢井昭男・山形大名誉教授(教育制度)の話「(漏えいは)手本となるべき教育関係者が最もやってはいけないこと。大学がきちんと採用試験に合格するような指導をしておけばよかったわけで、大学側にも問題がある」