『読売新聞』2006年12月30日付

東大解剖──第2部(10)
多彩なゼミで学生に刺激


普通の碁盤より線の数が少ない碁盤に向かって碁石を置く大学生たち。途中までプロの手順をそっくりまね、終盤からの勝負を何度も繰り返すこともある。囲碁初心者を対象に始めた東京大学教養学部の1、2年生の全学体験ゼミナール「囲碁で養う考える力」だ。

ルール説明から始まって授業は12回。通常なら1年ほどかかるアマ10級の実力を身につけさせるのを目標にしている。

日本棋院が全面的に協力。東大出身で日本興業銀行からプロに転向した石倉昇九段(52)と、黒滝正憲七段(31)、テレビでもおなじみの女流棋士、梅沢由香里五段(33)が指導する。

「囲碁は、受験勉強とは違う脳を使う。社会に出て新しいことを考える時に役立つ」。石倉九段の後輩たちへの助言だ。

ゼミの担当教官の兵頭俊夫教授(60)自身も棋歴40年以上の愛好者。「基本をしっかり学ぶことで独創性が生まれる。大局観を磨き、思考力を高めるのに役立つ」と囲碁の効用を説く。

東大には、以前から教員らが自分の関心でテーマを設定して開く「全学自由研究ゼミ」があった。さらに、体験色の強いものを今年度から「全学体験ゼミ」として始めた。教授会が認めれば、学生の提案でも外部から講師を招くことができて、正式な単位にもなる。10月からの冬学期には計64のゼミが開講している。





東大には、1、2年生で興味と関心に合わせて、進路を選択できる独自の「進学振り分け制度」(進振り)がある。今年の新入生から「全科類枠」も新設され、文系で入学しても、医学部や理学部にも進学できるなど、選択の幅が広がった。文系の学生でも、物理や化学の実験を選択できるよう、実験器具も増やした。多彩な教養教育と、進路選択の自由は、東大が掲げる理想でもある。

一方、進振りが、希望学科に進むための点取り競争を生み、興味よりも楽な授業に流れがちな面があるのも否定できない。

今年から理系の学生の数学の必修単位数を増やした。「将来基礎となる数学は、だまっていてもとるもの」という大学側の思惑ははずれ、未履修者があまりに多かったからだ。

ゼミも今年から選択必修の一つになった。従来も単位にはなったが、進学に必須ではないため、取らない学生も多かった。もっと関心を持ってもらうための苦肉の策だ。

点数が甘い教員の授業は「仏」として学生が集中、厳しい「地獄」の授業を敬遠する傾向が強いのは、東大も例外ではなかった。8年前には、教員間で「優」の数を3割程度にすることを申し合わせている。

最初に授業に登録だけして、点数が取れそうな試験だけを受けるということもあったが、今年から登録して試験を受けないと0点が残る制度にも変えた。

理想と現実。授業を巡って、いたちごっこのような制度改革が続く。(杉森純)

ユニークゼミが続々 今学期開講の全学体験ゼミには、全日本学生フォーミュラ大会に出場する車両の設計・製作や演習林での樹木解体、竹炭焼き、トランプの「ブリッジ」、太極拳、座禅などもある。学生提案の全学自由研究ゼミは、三つの講義が開かれ、ドキュメンタリー番組制作者や、音楽家、弁護士が講師となる。



 次回からは大学入試の最新事情がテーマです。