『山陰中央新報』2006年12月28日付

島根県立大学の市民研究員で、共同研究三件


島根県立大の北東アジア地域研究(NEAR)センターが今秋導入した市民研
究員制度を利用し、大学院生と一般市民が手を携えて行う三件の共同研究が
動き出した。一時の険悪さを脱したとはいえ、依然、日本と中国、韓国の外交関
係が不安定な中、中韓の留学生と県民らが協力し、両国の歴史的なつながりや
現状を調査する取り組み。新たな「懸け橋」へとの期待が集まっている。

同制度は、文部科学省の「魅力ある大学院教育イニシアティブ」に選ばれた同県
立大の教育事業の一環。北東アジアに関心を持つ市民を、同センターの研究員
として公募し、大学院生や教員との交流を通し、学外から刺激を与えてもらうの
を狙いに、始めた。

現在、県内外の会社員、公務員、自営業者ら三十二人が登録。毎週、交流サロ
ンを開くなどする。

具体化した三件の共同研究のうち、浜田市の郷土史研究家森須和男さんと、同
大学院の呉相美(オ・サンミ)さんが手がけるのは、「近世石見と慶尚道との漂流・
漂着民についての研究」。

石見を中心とした同県内の海岸には古来、嵐に遭うなどした朝鮮人が多く流れ着
き、地元の手厚い庇護を受けた後、送り返されたことが知られている。一方、朝鮮
半島へも日本人が漂着した。

今回の研究は、森須さんが長年追究し続けてきたテーマに、呉さんが関心を抱き、
実現。韓国の大学や図書館で関係資料を集め、韓国側の研究者とも意見を交わ
す。

森須さんは「韓国に漂着した日本人がどのような待遇を受けて送還されたか、詳
しい経緯は分かっていない。韓国でその資料が見つかれば、興味深い」と話して
いる。

県内外の市民と中国人の同大学院生が連携する残る二組は「満蒙開拓移民をめ
ぐる医療衛生問題」「日本の対中国環境協力対策」をテーマとした。

いずれも、国内外での資料収集や聴き取り調査を経て、成果をまとめ、来年三月
に開く市民研究員定例会で報告する。