『朝日新聞』2006年12月26日付

大学、短大の連携進む 単位互換や地域貢献 東京・多摩


大学や短大の連携が進んでいる。東京都内でも多摩地域を中心に、大学同士が手を結び、学生の単位互換や地域貢献に取り組む動きが活発だ。今月9、10の両日には、全国の連携組織の関係者が集まる「全国大学コンソーシアム研究交流フォーラム」が八王子市の中央大で開かれた。都内の取り組みも紹介されたが、連携にどんな意味をもたせ、各大学の個性をどう保つかなど、課題を指摘する声も少なくない。

子どもたちが環境保護の重要性を訴える「世界こども環境フォーラムin多摩」が11月、中央大で開かれた。

主催は、多摩地域の41の大学や短大が参加する産学官の連携組織「学術・文化・産業ネットワーク多摩」。大学間の単位互換の連携事業や子どもの環境教育などに取り組んでいる。

今回のフォーラムでは、多摩川河川敷で8月、小学生約70人を集めて実施した川の水の濾過(ろか)実験などの経験をふまえた発表会や、環境保護活動に力を入れるスリランカの子どもたちとのテレビ会議などを行った。

ネットワークが発足したのは02年。70年代、都心の大学のキャンパスが広い土地を求めて多摩地域に次々と移転してきたが、最近は少子化傾向と相まって都心回帰現象が起きている。そうしたなか、大学がもっと多摩地域と連携する道を探ろうと生まれた。

今回のフォーラムの場合、企画や運営は、ネットワークに参加する大学の約70人の学生が行い、春から会議を重ねてきた。学生たちの大半は、ネットワークの世話役である大学教授のゼミ生が占める。ゼミに入るとおのずとネットワークの仕事も引き受けることになる。

ネットワークの専務理事を務める細野助博・中央大総合政策学部教授のゼミ3年生の山下翔さん(21)は話す。「地域貢献を通じて、その地域ならではの魅力があることが実感できた。卒業後も役にたちそうだ」

●就活勉強会も

ネットワークではこのほかにも、参加大学を卒業した第2新卒者を対象に、就職活動で自分を見つめ直そうという勉強会も開いている。「ネットワークに参加する比較的小規模な大学では、卒業生の転職についてまでは情報を集めきれない。若い世代の転職支援に誰かが手をさしのべる必要がある」と細野教授。

「連携すると各大学独自の個性がなくなる」と消極的な見方が大学の中にあることに対しても、細野教授は話す。「他大学の学生や住民と活動を通じて刺激し合えば、自分たちの長所や短所がわかり、むしろ個性が強調される。また、大学が地元に貢献しながら町の魅力を住民や行政に気づいてもらうこともできる」

「ネットワークへの参加は学生への期待から」というのは、ネットワークの会員である多摩信用金庫・価値創造事業部主任調査役の長島剛さんだ。「学生が市民とふれ合いながら、地元企業にも興味をもってもらい、多摩地域での就職も考えてもらえば、地域全体の活性化につながる」と語る。

八王子市の冨貴沢繁幸・学園都市文化課長も、地元大学の連携組織について「大学や学生がもつ知的な財産を、町づくりなどに有効活用できる」と期待している。

○各校個性どう保つ 理由あいまいな組織も

大学連携の動きが都内とその周辺地域も巻き込んだ形で広がるなか、「全国大学コンソーシアム研究交流フォーラム」では、意義や実績を強調する一方、課題を指摘する声も相次いだ。

NPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構理事長の清成忠男・法政大名誉教授は、フォーラムの基調講演で、少子化が進む中、「(大学間の)競争力の強化が課題となっている」と話し、「連携するには、ライバルでもある大学間の利害が一致することが必要だ」と述べた。

また、清成名誉教授は取材に対し、全国の連携組織について「中には連携の理由があいまいなまま活動を続けている例も少なくない」と指摘。

「関西地方で大学連携ができ始めた10年ほど前は、各大学にもまだ財政的な余裕があった」とし、「大阪や京都、神戸などとの地域間競争を勝ち抜いて学生を獲得するのに、連携が役にたった」と振り返る。

しかし、少子化で「大学全入時代」を迎え、各大学の財政状況が厳しくなっている状況をふまえ、「学部の教育理念などに特徴がない大学ばかりが集まっても学生は集まらない。特色のある大学同士が組むことが大事だ」という。

●授業魅力的に

「首都圏西部大学単位互換協定会」は23区から多摩地域、神奈川県まで都県境を越えた大学が加盟。高校生セミナーも開く。事務局の国士舘大の担当者は「医学から美術系など幅広い科目を利用した『緩やかな総合大学』をめざしたい」と話す。しかし地域が広域のため、学生の単位互換授業の利用は、多くが近隣の大学間に限られている実情もあり、魅力ある授業を増やすなど「方針を見直す時期にきている」(同担当者)という。

都心の5大学による「f−Campus」は、対照的に単位互換に専念している。早稲田大の担当者は「大学の個性を保つことと、どうバランスを取るかで課題が残る」と話す。しかし、「女子大など日ごろと違う環境に学びにいくことで、幅広い視野の学生が育つことこそ本来の校風だと考える」とメリットを強調。「単位数で受け入れと送り出しの数をほぼ同数にしており、互いに他大の学生の受け入れすぎといった不公平感がないようにしている」という。

■都内の主な大学連携

◇名称
(1)発足年
(2)参加大学・短大・専門学校数
(3)主な構成
(4)活動内容

◇学術・文化・産業ネットワーク多摩
(1)02
(2)41
(3)中央、明星大など大学・短大、八王子市など自治体、企業、NPO
(4)単位互換、小学生向け環境教育、第2新卒者向け就職支援

◇f‐Campus
(1)01
(2)5
(3)早稲田、立教、学習院、学習院女子、日本女子大
(4)単位互換

 ◇首都圏西部大学単位互換協定会
(1)98
(2)30
(3)国士舘、桜美林大など大学・短大
(4)単位互換、高校生向けセミナー

◇NPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構

(1)05
(2)13
(3)法政、亜細亜大など大学、専門学校、三鷹市、国立天文台
(4)市民講座