『山陰中央新報』コラム2006年12月19日付

明窓:教育基本法改正の深層心理 


戦後リベラリズムの危機と言っては言い過ぎだろうか。教育基本法の改正のこ
とである。改正教育基本法が成立し、五十九年ぶりに教育の憲法が生まれ変
わ る。戦後改革の理念となったリベラリズムの教育版として産声を上げた教
育基本法▼それを何とかして変えたいという執念は、戦後保守の深層心理
を貫いてき た。安倍内閣によってその深層意識に日が当てられること
になった。教育史を塗り替えるような出来事なのに、世論を盛り上げる議論も
なく物静かに法案が通っ てしまった。野党や教職員組合は反対したが、世論
との共鳴や広がりを欠いたまま内輪の抗議に終わってしまったようだ▼しかし、
なぜ今教育基本法を変えなけ ればならないのか。法案が成立した今になって
も、大方の国民にとって釈然としないところがあるのではないか。「時代に合わ
なくなってきた」と説明されて も、そんなもんかなぁと漠とした思いに戸惑
う▼自民党を中心とする保守勢力にとって教育基本法のどこが気に食わなかっ
たのか。個人の尊厳を盾に行き過ぎた 個人主義をはびこらせ、権利ばかり主張
して義務を果たそうとしない。公共性を顧みず、自らの利益ばかりを追求する自
己中心的な風潮に教基法の影響を 重ね合わせた▼個人主義をやっつけて
公徳心を取り戻す。その主戦場は理念の再生産の場である教育現場であり、教
育の心根を入れ替えることで「美しい日本」 を再生させる。そんな主張が法改正
の深層を流れる▼リベラリズムは国家の統制から独立した自由という意味であり、
そのために個人の人格の発展を促そうとす る。それが個人主義の誤解によっ
て危機に陥る。(前)