『山陽新聞』社説 2006年12月20日付

臨時国会閉幕 戦後政治転換に検証必要


安倍内閣で初めての臨時国会が、十九日閉幕した。「改正教育基本法」と「防
衛庁の『省』昇格関連法」という、戦後の社会や国の枠組みを変容させる可能
性のある法律が相次いで成立した。戦後政治に残る国会となったといえよう。

教育基本法は一九四七年に制定されて以来の見直しとなった。強まった個人
主義に対して「公共の精神」を強調し、新たに策定する教育振興基本計画など
を通じて、教育への国のコントロールを強化する可能性を含んでいる。しかし政
府側が、教育現場がどう変わるのかなどの十分な説明を果たしたとは思えない。

防衛省昇格関連法は、内閣府の外局として国家機構の中で一歩控えていた形
の防衛庁を、省に格上げして前面に押し出す意味合いを持つ。併せて自衛隊と
して「付随的任務」だった国連平和維持活動(PKO)などの海外での活動を、防
衛・治安出動などと同じ「本来任務」とする内容だ。憲法の平和主義を踏まえて
軍事に抑制的であった国の防衛政策を転換する意図がうかがえるが、なぜ今
その必要があるのかは理解し難い。

これら法改正によって戦前のような軍国主義に戻るとは考えにくい。だが、戦
後続いてきた社会や国の基本的な仕組みや慣習、国際社会での日本の位置
づけなどに変化をもたらす契機となる可能性は大いにある。

両法案は小泉内閣からの継続審議であったが、成立させた安倍内閣の役割は
大きい。二つとも自民党内などに根強い意向がありながら長年実現しなかった。
それだけに安倍晋三首相が掲げる「戦後体制からの脱却」を印象づける形となっ
た。

八十五日間の会期中、政府が今国会に提出した法律・条約十四本はすべて成
立、承認された。継続審議となっていた政府提出十法案のうち六本が成立した。
巨大与党の力を見せつけた。

改正教育基本法の成立を受け政府は関連法の見直しに着手する。防衛政策で
は、自衛隊の本来任務となった海外派遣を容易にするための「恒久法」の制定
などを視野に入れつつある。これらの延長線上に安倍首相が目指すのは持論
の憲法改正だろう。実際、憲法改正手続きを定める国民投票法の来年の通常
国会での成立を図る構えだが、問題だ。

今必要なのは、今回の二つの法改正の影響を立ち止まって検証することでは
ないか。社会がどんな方向に行くのか、何か問題が起きないのかを見極めな
ければならない。それほど重大な意味を持つ改正だったことを肝に銘じておき
たい。