『秋田魁新報』社説 2006年12月20日付

臨時国会閉幕 国民とのずれが明確に


9月に発足した安倍内閣にとって最初の関門だった臨時国会が19日、閉幕し
た。政府が重要法案として位置付けた改正教育基本法や防衛省昇格関連法
が成立した点が今国会の大きな特色だ。安倍晋三首相が政権公約として掲
げる「戦後レジーム(体制)からの脱却」への一歩を踏み出したことになる。

教育基本法は昭和22年の制定以来、初の改正。前文で公共の精神や伝統
の継承などを盛り込み「我が国と郷土を愛する態度を養う」と明記した。一方、
昭和29年発足の防衛庁は防衛省となる。国連平和維持活動(PKO)などを自
衛隊の付随的任務から本来任務に格上げした。また、防衛相は閣議開催や予
算の直接要求なども可能となる。

保守勢力の念願だったこの2つの法改正を受け、安倍首相は憲法改正に向け、
来月召集の通常国会で国民投票法案の成立を図る考えだ。与党が衆院で圧
倒的多数を確保しているとはいえ、改正教育基本法のように力づくで成立を図
ることだけは避けるべきだ。

安倍首相が「美しい国」として描く国家像、新しい国のかたちが次第に具体化し
つつある。国が大きな曲がり角に差し掛かっていることへの懸念、警戒感を抱か
ざるを得ない。

重要法案が次々と成立することとは裏腹に、会期中に安倍内閣の支持率は、発
足時の65・0%の高水準から48・6%へと急降下した(共同通信社世論調査)。
郵政民営化造反議員11人の復党が原因とみられるが、はたしてそれだけだろう
か。

小泉政権の負の遺産とされるのが格差問題。持てる者と持たざる者、中央と地方、
さらに地方同士でも格差が広がっている。このほか、医療、福祉、いじめなど、国
民にとって切実な問題が山積している。にもかかわらず、首相の熱意がどうも伝
わってこないのだ。こうした姿勢が「国家あって国民なし」の政権ではないかとの
批判を生んでいる。

もっと言えば、首相の目指す政策の優先順位が、国民が期待する政策とずれて
いるといわざるを得ない。沖縄知事選や神奈川、大阪の衆院補選で自民党は勝
利したものの、前回総選挙に比べ、無党派層の票を相当減らした事実が、そのこ
とを示している。

それにしても野党、特に民主党には迫力も一貫性もなかった。野党共闘を組んで
安倍政権との対決路線で臨んだはずだったが、国会戦術は最後までぶれた。特
に教育基本法改正案に関しては、衆院段階で与党単独採決に反発して審議拒否
しながら、沖縄県知事選で野党候補が敗北した途端、何ら明確な説明もなく審議
に復帰してしまった。

来夏の参院選へ向け民主党は基本政策を公表した。すべての年金一元化と消費
税の福祉目的税化、安全保障政策では集団的自衛権の一部容認などが柱だが、
全体的にはあいまいさが残る。参院選は小沢一郎代表にも正念場になるだけに、
安倍首相の「美しい国」路線に対抗するもう一段の政策づくり、そして国家像の提
示が必要ではないか。