『信濃毎日新聞』2006年12月21日付

今日の視角 改正教育基本法を読む


参議院で改正教育基本法が与党の賛成多数で可決された翌日12月16日の本
紙朝刊は1ページを使って現行の教育基本法と改正教育基本法を並べて掲載し
ていた。

あらためて読み比べてみたが、現行法の簡潔な内容はいかにも基本法の名にふ
さわしく、その書かれた時代の社会的空気を反映して、これからの教育を慈しむ気
持ちが伝わってくるように感じられた。それにひきかえ、改正基本法は分量におい
て約2倍に膨らみながら、そのことによってむしろ問題が拡散し、今日の混迷する
教育にこれが福音となるような響きが感じとれなかったのである。

臨時国会での審議と並行して、教育の分野で一連の事件が報じられたのが今さ
らながら気にかかる。北海道での女子小学生のいじめによる自殺は1年前ので
きごとだが、それが明るみに出るや、一斉に教育委員会に非難が集まった。連
鎖的に小中学生の自殺がつづいて各地で教育委員会が矢面に立たされた。つ
づいて起こった高校の必修科目未履修問題で教育委員会バッシングは頂点に
達しながら、文科省が土俵の外に立っているのが不思議だった。

基本法改正審議が衆議院で大詰めを迎えるあたりになって、TM(タウン・ミーティ
ング)のヤラセ問題が急浮上してきた。TMは私にはおよそ縁遠いものだったの
だが、そこでサクラやヤラセが日常化しており、それはどうやら内閣府・文科省に
よって脚色・演出され、地方教育委員会が運動を担わされていたらしいことが報
じられた。TMに出席する大臣が静岡駅から会場まで乗るために東京から何台も
のハイヤーがチャーターされていたことなども明るみに出た。

改正基本法に「国を愛する」ことが明記され、やがて国旗・国歌のように教育現場
で猛威を振るうにちがいないが、現行法の2倍に膨張した条文の各所に、教育の
国家的統制の装置が施されていることが1番わたしの気にかかるところだ。

(井出 孫六)