『東京新聞』2006年12月21日付 たなぼた予算 歳出甘く 財務省原案内示 安倍晋三首相が初めて手がけた二〇〇七年度予算の財務省原案が二十日、内示 された。新規国債発行額は二十五兆四千億円と「前年度比で過去最大の減額幅に する」という公約を達成。少子化対策でも、乳幼児(三歳未満)向け児童手当の増額 を成し遂げ「美しい予算」と評価する声も出た。だが、一皮むけば地方への「ばらまき」 と受け取れる補助金の存在も目につく。税収増に甘え、歳出削減の手綱がゆるめば 「改革路線」は後退する。 (経済部・池井戸聡) ■自賛 二十日の臨時閣議後記者会見。尾身幸次財務相は「財政再建路線を貫くことができ た」と財務省原案を自画自賛した。 確かに原案は財政再建に向け、一歩前進の内容だ。新規国債の発行額は前年度当 初より約四兆五千億円も減少。「隠れ借金」と呼ばれる地方交付税特別会計の借り入 れを一般会計に移し、一兆七千億円を返済するプランも打ち出した。 これには「辛口」で知られるみずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストも「債 務返済にこだわる姿勢には好感が持てる」と高評価だ。安倍首相自身も四兆五千億 円あまりの新規国債の減額と、一兆七千億円の債務返済で「計六兆三千億円の財政 健全化につながった」と胸を張った。 公共事業関係費を3・5%削減し二十年ぶりの七兆円割れを実現する一方、「再チャレ ンジ支援」や経済成長を重視する立場から中小企業対策費は増額。「安倍流」のメリハ リも利かせた。 ■誘惑 だが、税収増への甘えから芽生えた「歳出増への誘惑」を断ち切れなかったのも事実 だ。来年夏の参院選を控え、「地方への配慮」を求める与党内の声が歳出増加圧力に なった。 そもそも予算編成の最大の焦点は地方交付税の扱いだった。地方交付税は国の税収 の一定割合(法定率、約30%)を地方に配分する制度。つまり国の税収が七兆五千億 円増えれば、地方交付税は二兆円以上増加する仕組みだ。ただ、それでは国の支出も 増える。 このため財務省首脳は当初「新規国債発行額を抑えるには、地方交付税を法定率以下 に削らねばならない」と意気込んだ。実現すれば一九九三年度以来、十四年ぶりの特例 措置。だが、地方と与党議員の抵抗であえなく断念した。 最終的には法定率分に加算して交付する「法定加算」などの支払いを将来に先送りする 「奇策」を使い、地方交付税を抑え込んだが、それでも交付額は前年度より約三千七百 億円も増えた。 このほか一般の公務員より優遇されている公立学校教職員の給与見直しを先送り。私 立大学への助成金は四十六億円カットしたものの、「科学研究費補助金」をほぼ同額分、 増やすことを認めた。各省庁からの「取引要求」に応じた形だ。 ■勝負 いずれにせよ、予想を上回る税収増と国債発行の減額で国の財政状況は好転。財政の 健全度を示すプライマリーバランス(PB)の赤字は、前年度の十一兆二千億円から四兆 四千億円に減る。 このため「一一年度にPBを黒字化」という政府の目標は前倒しで達成される可能性が高 まってきた。すでに専門家の間からは「政府は年明けにも目標を修正するか、別の目標を 示すのではないか」との声も上がる。 政府・与党は好景気を持続させ、この年末に「先送り」を決めた消費税率の引き上げ論議 や、証券優遇税制の廃止問題を来年秋以降、集中的に議論したい考えだ。だが、現在の 景気拡大局面はすでに戦後最長。失速の懸念がつきまとう。 こうした中で、財政再建をどう進め、景気拡大を持続させていくのか。第一生命経済研究 所の熊野英生主席エコノミストは、まもなく幕を開ける〇七年を「どのような財政再建への 哲学を政府が示すかが問われる年になる」と予測する。 |