『朝日新聞』2006年12月19日付

子どもの明日どうなる 教育基本法改正


「教育の憲法」と言われる教育基本法が15日、59年ぶりに改正された。議
論を呼んだ「愛国心」や「国家の介入」ばかりでなく、さまざまな条項が盛り
込まれた。改正は、子どもたちにどんな影響を及ぼすのか。教育現場では、
期待と不安が入り交じっている。

日本の伝統を重視する「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆
した歴史と公民の教科書を中学校で今年度から使用している栃木県大田原
市。小沼隆教育長は「(現行法は)60年近くたって時代にそぐわない内容だっ
た」と歓迎する。

改正法は「我が国と郷土を愛する」態度を養うよう求め、「家庭教育」の責任
にも触れる。「家庭を大事にし、郷土と国を愛する国民が育つ。今までも現場
では教えていたが、バックボーンが出来たことに意義がある。現場で教師が
指導する時の気構えが違ってくる」

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16の小学校で今年度から「愛国心」を評価する表現を通知表から削除した
茨城県常陸大宮市。小学校の教諭(47)は「改正は残念。通知表を見直し
たばかりだが、『国を愛する態度』が盛り込まれたことで、評価や授業内容
に愛国心が入ってきてしまうのではないか」と不安げだ。

北九州市立小学校の式典で君が代斉唱時に起立せず、市教委から受け
た減給処分の取り消しを求めている稲田純さん(48)は「自由に意見が言
えず、国の考えを押しつけられる社会になるおそれがある」とみる。いじめ
や自殺などの問題には「現場の教員なら、法の文言を変えても何の役に
も立たないとみんな感じていると思う」。

改正で、政府は今後5年間の「教育振興基本計画」を定めることになる。
予算を確保しやすくなる半面、具体的にどのような項目を盛り込むかが焦
点となる。

財政破綻(はたん)した北海道夕張市では、小学校7校、中学校4校を1校
ずつに統廃合する計画が持ち上がっている。教育関係者は、改正が目の
前の問題の解決にどうつながるのか、はかりかねている。

教師歴30年、児童数29人の市立幌南小学校の森井智江校長(53)は
「現場は様々な問題を抱えているが、改正したからといってすぐに改善され
るわけではない。現場の状況を見つめた上で、教育を受ける側の立場に立っ
て考えてほしい」と願う。

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改正法は、「私立学校教育の振興に努めなければならない」とも定める。一
方で、私立14校(朝日新聞調べ)で履修漏れが見つかった埼玉県では、上
田清司知事が11月、補助金の減額などを検討していくと表明した。漏れが
あったある私立の教頭は、私学への補助額や履修漏れの定義が都道府県
によって違っていることを挙げ、「補助や処遇の不均衡、学習指導要領の解
釈の統一性などを、きちんと保障できるような体制づくりを進めて欲しい。そ
うでなければ改正は無意味だ」と打ち明ける。

9月にあった教育改革タウンミーティング(TM)で、国の意向に沿って「やら
せ」質問を依頼していた青森県八戸市教委。関係者は可決に複雑な表情だ。

松山隆豊教育長は「本来、国民の意見を十分に聴くためのTMを結果的に
曲げることに加担してしまった。それによって、改正案についての議論が十
分尽くされなかったとの声も上がった。不本意だ」と話した。