『産経新聞』2006年12月12日付

【明解要解】自民が制定目指す「宇宙基本法」


自民党は宇宙開発を非軍事目的に限定してきたこれまでの政府解釈を変更する
ため、「宇宙基本法」(仮称)の制定を目指してきたが、今国会への法案提出を見
送る情勢だ。軍事目的の宇宙開発のハードルを「非侵略」という名目で下げる法
案の行方は、公明党の慎重姿勢もあって視界不良だ。(政治部 田中靖人)

宇宙条約第4条で定められる宇宙の平和利用の「平和」について、政府は昭和44
年の衆参両院の決議に基づき、非軍事と解釈している。欧米などでは偵察衛星
などによる軍事利用を認める「非侵略」という解釈が大勢となっているが、日本は
「近隣諸国への過剰な配慮」(自民党関係者)から国際常識より厳しい条件を自ら
に課してきた。

昭和58年には、自衛隊が旧電電公社の通信衛星の公衆回線を使うことは国会決
議に反するか否か、という議論が起きた。60年に、民間での利用が一般化してい
る衛星などは利用できる−とする統一見解を政府が発表し、この論争を乗り切った。
ところが、その見解が平成10年の北朝鮮による弾道ミサイル「テポドン」の発射を
受け、日本独自の情報収集衛星を開発、導入することにブレーキをかけた。

衛星の解像度(識別できる物体の大きさ)が、当時打ち上げ予定だった商用衛星
の約1メートルどまりとされ、解像度10センチ程度という米軍の偵察衛星に遠く及
ばないことになった。

日本を取り巻く安全保障環境の変化に合わせ、ようやく自民党が昨年2月、河村
建夫元文科相を中心に「非軍事」解釈の変更を含む宇宙政策の見直しに着手。
今年3月に「宇宙基本法」の制定方針を打ち出し、6月には法案骨子を決定した。
この臨時国会で法案提出にこぎつける算段だった。

法案の基本理念には「宇宙開発はわが国の総合的な安全保障に寄与するもの
でなければならない」と明記され、軍事利用の余地を与えようとしている。解像度
の高い情報収集衛星や、ミサイル防衛に不可欠な早期警戒衛星の開発、保有に
道を開くためだ。

しかし、与党が11月22日に立ち上げたプロジェクトチーム(PT)では、公明党が
「あまり走らないでほしい」と自民党にクギを刺した。公明党が渋る理由は「党内
で議論したことがない」というもの。「宇宙と原子力の平和利用は日本の科学技
術政策の柱。公明党内では慎重な議論を求める声が大勢だ」(党幹部)という。

もっとも、公明党は昭和62年に首相を会長とする宇宙開発会議を設置し、総合
的な宇宙政策をとることを目指す「宇宙開発基本法案」を議員立法で国会に提
出した経緯がある。平和利用の解釈をめぐる溝を埋められるかどうかが鍵だ。

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