『読売新聞』2006年12月19日付 東大解剖──第2部(1) 企業と連携 セレブ検診 高級感あふれる「ハイメディック・東大病院」の待合室 「古い、汚い、怖い」 と言われた東大病院が大変身している。 外来受付の脇を通って、東京大学の銀杏(いちょう)マークが付いた専用 エレベーターで「中央診療棟2」の9階に上がり、エレベーター前のガラス 製の扉を開けると、大理石や紫檀(したん)(ローズウッド)張りの床や壁 が目に飛び込む。ホテルのような豪華な空間だ。 先月17日、東京・本郷の東大付属病院内にオープンした会員制の検診 施設「ハイメディック・東大病院」。1日14人限定で8時間かけて、最新の 陽電子放射断層撮影(PET)やコンピューター断層撮影法(CT)を使い、 脳こうそくや心臓病、成人病などの兆候を調べる。 経営するのは会員制リゾート会社「リゾートトラスト」の関連会社。東大病 院は検診を委託される立場だ。異常が見つかると優先的に診察が受けら れる。 入会金と保証金で600万円、年会費25万円だが、既に350人以上の会 員が集まった。 ◎ 今年9月に完成した「中央診療棟2」の7、8、9階は、22世紀医療センター が入る。東大と企業が連携して、新しい医療サービスを研究、開発する。 ハイメディックのほか、日立製作所や富士フイルム、コカ・コーラなど22社 が寄付講座を提供。佐川急便は、荷物をベッドまで届ける「手ぶらで入退 院パック」を、東大限定サービスとして始めた。 「大学で金持ちの検診を行う必要があるのか」「高価な機器を予防に使っ ても良いのか」と豪華な検診施設には反発も強かったが、「検診は今後伸 びる分野。東大が突破口を開き、学問の中心になるべきだ」(今村知明・東 大病院企画経営部長)と、学内を説得して開設にこぎつけた。 ◎ 大学の法人化で国からの交付金は、原則として減らされていくため、大学病 院にも「経営」が強く求められるようになった。 人件費のかかる大学病院では、症状の軽い外来患者が来ても、診療報酬が 安いため、診察するほど赤字になってしまう。治療費が稼げ、研究面でも欠か せない高度な医療が必要な患者を紹介してもらうため、東大病院は専用窓口 となる地域医療連携部を昨春に設置。地域の診療所などから紹介を受けた患 者は、優先的に診察が受けられるようにした結果、紹介患者は1000人以上 増えた。 今年4月には接遇向上センターを設けた。「あいさつ、笑顔、身だしなみが基 本。相手の目を見て話しましょう」と医師や看護師に言葉遣いやマナーを教え る。かつて“タブー”扱いだった化粧法の講習も始めた。看護師出身で、同セン ター顧問の竹永和子さん(59)は「病院はホスピタリティー(もてなしの心)の元 祖。日本航空や帝国ホテルがライバル」と意気込む。 かつては「入院をためらう」と揶揄(やゆ)された他学部の教授たちからも「最近 は診てもらいたいと問い合わせを受けるようになった」。「中央診療棟2」の竣工 (しゅんこう)記念式典で広川信隆・医学部長(60)が胸を張った。(杉森純) 東大病院 1858年に江戸幕府が設けた神田お玉ヶ池種痘所が起源。2005年 度の入院患者数は延べ38万7241人、外来患者数は延べ76万4301人で、い ずれも国立大学病院で最多。4月現在、職員は2705人(医師759人、看護師 884人、技師289人など)。05年度の診療報酬は約292億円で、02年度より約 43億円増。退院支援にも力を入れた結果、05年度の新規入院患者は2万1500 人と、02年度より4500人増えた。 |