『京都新聞』社説 2006年12月16日

臨時国会  国民の期待とは違った


安倍晋三政権の誕生後、初めての臨時国会がきのう、会期末を迎えた。

野党からの内閣不信任案を受け、会期は四日間延長されたものの、安倍首相が
最重要法案と位置づけていた改正教育基本法や防衛庁の「省」昇格関連法は可
決し、成立。事実上、閉幕した。

「戦後体制からの脱却」を掲げる首相にとって、「新しい世紀にふさわしい日
本の骨組みをつくるうえで大切」とする両法が成立したことは、上々の政権滑
り出しに違いなく、所期の目的は一応、達成したと考えているのではないか。

十四日の参院の委員会可決後、もらした「本当によかった」との言葉からも、
それがうかがえよう。

ただ、なぜ今、教育基本法の改正であり、防衛庁の関連法なのか、疑問を抱い
た国民は少なくなかったろう。首相は丁寧に説明するべきだった。

「いざなぎ超え」景気も実感がなく、非正規社員は全雇用者の約三割を占め、
十年前の二倍だ。医療、年金など社会保障制度でも、保険料や自己負担の増加、
給付カットなどで国民負担は増した。

国民が安倍政権に期待したのは、生活に直接かかわる切実な課題に、どう応え
てくれるかではなかったか。

郵政造反組の復党などへの批判もあっただろうが、50%を切る内閣支持率の
急落は、国民要望とのずれが一番の要因とみて差し支えあるまい。

にもかかわず、そこに切り込めなかった野党、特に民主党も情けない。

教育基本法改正案をめぐる審議でも、会期中にいじめによる子どもの自殺が相
次ぎ、高校必修科目の未履修やタウンミーティングでの「やらせ」が発覚。そ
れに時間をかけたのは仕方ないにしても、衆院の採決に際しては、来年の参院
選での野党共闘を優先させたため、対応が揺れ、迷走し続けた。

対案を出したからには、政府案との違いを明確にし、世論も喚起して真正面か
ら議論するべきだった。首相と小沢一郎代表の党首討論も、対立軸を鮮明にす
ることができず、物足りなさが残った。

振り返れば今国会は、開会直後に北朝鮮の核実験があり、安倍首相はタカ派色
を弱めることで、対中国、韓国のアジア外交で早々に得点を稼いだ。

政権運営は、小泉純一郎前首相の路線を踏襲、官邸主導を打ち出してはいるも
のの、道路特定財源見直し策にみられるように違いも出始めた。したたかな計
算のうえか、指導力の弱さなのか。安倍カラーは、まだはっきりとは見えない。

来年は参院選、統一地方選の年だ。年明けには通常国会も開かれる。

安倍首相に求められるのは国民の声に耳を傾け、優先順位を考慮したうえで、
政策の中身を真摯(しんし)に語りかけることだ。野党も「敵失」に期待する
より堂々と政策で応じてもらいたい。そうでなければ「言論の府」の名が泣こ
う。