『東奥日報』社説 2006年12月17日付

政府は疑念、不安をぬぐえ/「教育の憲法」改正


敗戦二年後の一九四七年に施行された教育基本法は、五十九年にわたって戦後
教育の柱になり「教育の憲法」と言われた。国家のためだった戦前の教育を反
省し、自主的に考えられる一個の人間を育てていくことを根本理念にしている。

その理念を大きく転換させて「公共の精神」を重視する改正教育基本法が十五
日、参院本会議で自民、公明両党の与党賛成多数で可決された。

自民には、個人を重視する現行法は道徳や公共心を軽視し、教育を荒廃させた
とする意見が根強い。その思いも受けた小泉政権が改正案をつくる。引き継い
だ安倍政権下で成立した。

戦後体制からの脱却を掲げる安倍首相は、占領時代につくられた教育基本法と
憲法を自らの在任中に「二十一世紀にふさわしい内容に書き換えたい」と言っ
て登場した。首相は目的の一つを達成した。

背景にあるのは、昨年の衆院選で自民が大勝した数の力だろう。だが、自民は
この選挙で、国民に直接賛否を問いかけてもいいほど重要な教育基本法の改正
を争点にしていなかった。

共同通信が十一月下旬に行った全国世論調査によると、改正案賛成が53.1%、
反対は32.9%。賛成した人のうち今国会で成立させるべきとする人は43.1%、
成立にこだわるべきでないが53.8%あった。

改正には肯定的だが、教育は「国家百年の計」だから丁寧な審議を、と世論は
望んでいたとみる。私たちも、改正の是非を国民が判断するためにも深い論議
が必要と繰り返し求めた。

ところが、今国会の審議は改正案賛成の「やらせ発言」もあったタウンミーティ
ング、いじめ自殺などが中心になった。なぜ今改正なのかの政府の説明も不十
分。消化不良になった感があり疑念、不安が残った。政府はぬぐうべきでない
か。

改正法は、公共の精神を尊ぶとか「我が国と郷土を愛する態度を養う」といっ
た現行法にない道徳規範を盛っている。

ただ、愛国心は自然ににじみ出るべきもので何を愛するかの考え方も違うはず、
という声が改正賛成の人にもある。なのに教育の目標の一つと明文化し、押し
付けるようにしていいかという疑念がある。愛国心をどう教え、どう評価する
のかという不安が学校現場から出ている。

国が教育に関与しすぎないよう歯止めをかけてきた現行法の条文に「教育は法
律の定めによって行われるべき」と付け加えられた点も問題視されている。

これで国や行政が教育に介入しやすくなり、工夫して教える学校現場の自由が
締め付けられないか。政府が変わり、法律や教育目標も変わって教える側、教
えられる側とも混乱するのではないか。そんな心配もある。

改正法の成立で土台が変わった教育の実際の姿がどうなるかは、これから本格
化する学習指導要領の改定のほか関連する法律の改正、教育再生会議の提言に
よって煮詰まっていく。

その過程で、懸念されている問題を政府が解消しようとするのかしないのか注
視したい。安倍政権が目指し、戦後日本の大きな曲がり角になる憲法改正問題
にも目を一層凝らしたい。