『陸奥新報』社説 2006年12月18日付

「改正教基法の課題」 危うい国家的関与の強化


「教育の憲法」といわれる教育基本法改正案が成立した。しかし参院本会議で
は投票総数230票のうち賛成131票、反対99票。総数を100とすると
「57%対43%」と、ある意味ではわずかの票差は異様であり、それだけ問
題のある改正法である点を忘れてはならない。

教基法は1947年に制定されて以来、初の改正だ。なぜこの時期に、という
素朴な疑問は消えない。「戦後体制からの脱却」を掲げる安倍晋三首相にとっ
て、政権の最終目標は憲法改正であり、その布石となるのが教基法改正だ。

また、郵政造反組の復党問題や政府のタウンミーティングでの「やらせ質問」
などで内閣支持率が急落している折である。今回の改正はつまずいてはならな
い改憲への第一歩とみての強行突破なのだろうか。とすれば教基法は踏み台と
みなされたことになる。

教基法の審議中には、いじめ自殺や必修科目の未履修など教育にかかわる深刻
な問題が相次いだ。それだけに民主、共産、社民、国民新の野党四党の反対を
押し切った与党の姿勢に対して「なぜ今なのか」「急ぎ過ぎ」という批判の声
が上がっている。

改正教基法の一番の特徴は、教育に対する国家的な関与の度合いを強めたこと
だろう。この点で同法が具体的に反映される今後の学習指導要領改定や学校教
育法、教員免許法、地方教育行政法など30を超す関連法の改正から目が離せ
ない。

法律は一度成立すると、反対意見があったことは次第に忘れられ、やがて拡大
解釈されていく。「抵抗力」の弱い地方では特にその傾向が強く、法解釈は形
式的になりがちだ。教員が多忙で、子供と正面から向き合うことが少なくなっ
た教育現場では、国の方向転換に混乱し、いじめの再発や新たな問題も起こり
かねない。

改正教基法の条文では第二条「教育の目標」として豊かな情操と道徳心、公共
の精神、伝統と文化を尊重し国と郷土を愛し国際社会に寄与する態度が明記さ
れた。

これまでの教基法で学問の自由や自発的精神が前面に出ていたのと比べ、改正
法では徳目教育を目標化した点が目立っている。「愛国心」について安倍首相
は「内面に入り込んで評価することはない」と言っている。だが政府は「教員
の指導は責務」「学習姿勢を評価」と、現場に具体的な指導を求めている。

現場にとって、徳目教育は難題だろう。これから新たな指導要領や関連法に沿っ
た教育が試みられ、やがて「模範校」が一つの基準になるだろう。その過程で、
教師の多様な価値観や子供の自由な発想が変にゆがめられないか心配である。

学校や教育委員会の硬直的な対応でいじめ問題が膨れ上がったのと同様、徳目
教育も形式化する恐れがある。国歌斉唱が学校評価の一つの基準になっている
のと同じ理屈だ。上意下達ではない幅のある試行を望みたい。国の教育への関
与は、あくまでも抑制的であるべきだ。