『朝日新聞』2006年12月17日付 声欄

 全国の教師に苦悩と不安が

 小学校教員 大村 香織 (札幌市手稲区 38歳)

 終戦直後、戦場へ教え子を送るための教育を推し進めてしまったことへの反省が込
められた教育基本法。全文に目を通した人は、どれぐらいいるのだろうか。この理念
を真に貫いた教育をしていれば、どんな学校になっていたかと、最近よく考える。

 この教育基本法に誤りはなく、足りないとも思わない。むしろ世界中が内戦や様々
な危機に苦しむ今こそ、必要なものだと思う。足りないのは、学校現場を取り巻く環
境の整備ではないのか。例えば、今起きているいじめの問題などは、基本法を変えて
解決できるものではない。

 過熱する競争で子どもたちは必要以上のプレッシャーにさらされ、教師は40人の
子どもがいる教室で一人ひとりと向き合う時間を与えられず、過重な業務を押し付け
られ、意見も言えずに苦しんでいる。

 改正教育基本法が15日、成立した。教師はひたすら管理され、「愛国心」と社会
奉仕を、教育という名の下に押し付けることになるだろう。

 社会の矛盾に声を上げられない教師が果たして子を育てられるのか。競争主義、完
全な管理の下、どうして民主的な教育が実現するのか。全国の教師は苦悩し、不安で
いっぱいだ。

 やらせの処分矮小化するな

 無職 宍浦 尚 (茨城県龍ヶ崎市 64歳)

 政府主催のタウンミーティングの「やらせ」問題で、安倍首相が自ら報酬3カ月分
を返納するという。冗談ではない。問題を矮小化してほしくない。

 やらせとは、下々の言葉で言えば八百長、イカサマだ。問題の本質は世論を政府の
都合の良い方向に誘導しようとしたことにある。政治の禁じ手だ。報酬を削って決着
させようとするのは、民意を金で買収しようとするのと同義だ。

 改正教育基本法が15日、成立した。教育基本法といえば教育百年の大計だ。首相
自身は「愛国心」について、何をどう想定しているのか、どんな歴史観(歴史家ので
はなく首相自身の)、価値観に基づき作成したのか。納得いく説明がとうとう聞かれ
なかった。

 曖昧にせず、それこそ首相の言葉で言う「きちんと、しっかり」、国民が納得する
ような説明を改めて行うことこそ、「国民に対し真の責任を取る」ことではなかった
か。