『信濃毎日新聞』2006年12月16日付

「愛国心」受け止め、世代で温度差 改正教基法成立


戦後教育の象徴とされる教育基本法が15日、改正された。国を愛する態度を
養う―とした「教育の目標」など新たな要素が盛り込まれた約60年ぶりの全
面改正。戦争を知る世代と、これからの教育を担う世代の受け止めには微妙な
温度差が浮かんだ。ただ、議論が十分だったかとの声は双方から相次いだ。

<戦争世代>

ソ連による抑留から帰国後、39年間、小学校教員だった松本市の柳沢要さん
(81)は旧基本法が強調した「個人の価値」が「何をやってもいい自由とは
き違えられてきた面もある」と指摘。家庭教育にも目を向けた法改正は悪くは
ないと思っている。ただ、「愛国心」については「いい態度、悪い態度との評
価につながりかねない。必要だが、自然に育つものであるべきだ」と話した。

沖縄戦経験者の親里千津子さん(75)=長野市=は「戦中、国を愛せと教育
され、多くの人が死んだ。国民をマインドコントロールできる恐ろしさがある
のが教育」と話す。「なぜ改正が必要かが不十分なまま。戦争できる国づくり
の一環では」と危機感を示す。

上田市の少年補導員、荒川キヨさん(75)も議論が不十分だったと疑問に感
じるという。国の統制強化につながり、「子どもは多様なのに、優等生の視点
の教育にならないか」と心配する。

信大名誉教授の宮地良彦さん(81)=松本市=は、障害者への必要な支援な
どを盛った点などは評価しつつも、国を愛する「態度を養う」との表現は「ま
やかしに見える」。愛国心の点数化が始まりかねないと懸念し、「愛される国
をどうつくるかが教育と政治家に問われているはずだ」と強調した。

<若い教員ら>

「成立は強引だと思うが、改正する時期とも感じる」と話すのは、教壇に立っ
て2年目の小学校男性教員(24)=長野市。「学校、家庭、地域住民が教育
での役割と責任を自覚する―とした13条などは、教育現場で欠けている。問
題が起きると学校だけに責任があるかのような家庭や地域の意識は変えられる
のではないか」と期待した。

信大教育学部3年で小学校教員志望の女子学生(20)は「国際社会の中で自
国の文化を尊重する項目は必要と感じる」とも話した。

同学部3年で美術教師を目指す桜井由希子さん(21)は、まだ条文を詳しく
読んでいない。ただ、ニュースで「愛国心」が議論の中心と知り、「国や自国
の文化を自発的に好きになることが芸術でも教育でも大切だと思う。だが、義
務化することは拘束されるような気もする」。教育基本法改正が友だちと話題
にはなることはほとんどないという。

教員歴7年目の高校男性教員(31)=松本市=は「教員同士でも議論は盛り
上がらないままなのに、決まってしまった。審議は足りない」と納得できない
様子を見せる。国と地方公共団体が家庭教育を支援する―と新たに定めた10
条について、「家庭への過干渉につながらないか」と懸念した。