『毎日新聞』岩手版2006年12月14日

教育基本法改正:反対の元校長座談会 「教育、中身の議論を」


◇「競争は育ち合い否定」

参院で審議が進む改正教育基本法の成立が秒読み段階に入った。県内小中学校
の元校長、川村勝さん(64)▽岩渕栄治さん(78)▽戸蒔健夫さん(78)−−の3人
は、国民的議論が盛り上がらないまま、法案が成立することを危惧(きぐ)する。廃案
を求める理由を聞いた。【念佛明奈】

−−なぜ教育基本法改正に反対するのか。

川村 なぜ法律を変える必要があるのか、改正で(憲法と密接な関係にある教育基
本法に)生じる法的な矛盾点も説明しないままの採決は、認められない。

岩渕 多数決で一方的に決めるのではなく、本当に教育がよくなるように、中身をよ
く議論することを望む。先生と親とが、教育のあるべき姿を話し合う時間と場も必要だ。

−−法案の「教育の目標」には、「国を愛する」態度を養うことが盛り込まれた。

戸蒔 心の中の評価はできないが、態度で確かめることはできる。私が中学生のこ
ろ、「天皇陛下」という言葉を聞けば直立不動になるのが普通だった。そのうち気持
ちは「国を裏切るわけにはいかん」となってくる。態度を強制するうちに心は変わって
いく。

川村 与党案でも、国を愛する「心」を「態度」という言葉に変えた。態度は評価できる
が、心を評価できないと(政府が)気付いたからだ。態度から入って心を変えようとして
いる。

戸蒔 風土や伝統を愛するという意味の愛国心もあるが、「愛国心があるから日本人
だ」と自覚を持って暮らしたことはない。愛国心を活用したい人が使う言葉だろう。

−−法改正で、学校現場に競争原理が導入されると懸念する声があるが、健全な競
争で力がつくのではないか。

川村 滝沢村の小学校勤務のころ、村教委からの水泳記録会実施の要請を断った。
記録会を持ち込めば、泳げない子を置いて、記録の良い子をさらに良くしようとなる。
泳げない子が泳げるきっかけをつかんだ時は、ものすごい力を発揮するんだ。競争で
子供が磨かれるとは、一概に言えない。

岩渕 私は、子供たちがどんな夢を持ってるかを互いに語り合い、皆が自分の希望を
実現するために努力しあう学級作りを心掛けてきた。すると、出来る子も出来ない子も、
励まし合うようになっていったね。

川村 競争は、(子供たちが)育ち合うことを否定する。

戸蒔 ある県内の女子高校で能力別学級編成を行っていた。その時期、校内暴力な
どで一番荒れていたよ。能力別編成をやめたら、岩手大学に合格した子と製パン工場
に内定した子が一緒に喜び合う風景が見られるようになった。比べることは劣等感を生
み、自信を失わせる。自信がなくなったら人間はやれることをやれなくなる。