『朝日新聞』社説 2006年12月14日付

やらせ発言 こんなショーはいらない


閣僚と国民との活発な直接対話。そんな触れ込みで小泉前内閣が始めたタウン
ミーティングは、仕組まれた政府のトークショーになっていた。

政府の調査報告書からは、そうした姿がはっきり浮かぶ。

ミーティングは01年6月から今年9月にかけて、全部で174回開かれた。そのう
ち6割にあたる105の会場で、議論が盛り上がるよう参加者へ事前に発言を依
頼していた。

365人が頼まれて発言し、うち65人には5千円の謝礼まで支払われていた。さ
らに発言内容まで政府が指定する「やらせ発言」は、15会場で53人にのぼる。

「やらせ」は教育改革についてのミーティングだけでなく、司法制度改革でも6回
あった。公正さを守るのが仕事である法務省が、そんな手まで使っていたとは。
怒りを通り越してあきれてしまう。

調査報告書は「世論誘導との疑念を払拭(ふっしょく)できない」と結論づけた。
当時、官房長官としてミーティングを統括していた安倍首相を含め、関係者の責
任は重い。

民意を味方につけて抵抗勢力を押し切り、改革を進めていく。タウンミーティング
は「小泉劇場」の舞台装置のひとつだった。

当初は人々の関心が高く、閣僚が会場のヤジとやり合う熱気もあった。全都道
府県を一巡した後の02年から、会場を埋めるため自治体に参加者の動員を要
請するのが普通になっていった。

なにごとも大過なく、というお役人の習性から始まったことかもしれない。だが次
第に、世論を政府寄りに誘導しようと、発言まで演出する文字通りの芝居になっ
ていった。その様子が調査結果からうかがえる。

もちろん、政府が国民と対話を深めるのは民主主義にとって有意義なことだ。政
府は運営を見直して再出発したいとしているが、信頼を回復するにはよほどの改
革が必要だ。

いっそのこと、各地の市民団体に運営主体になってもらうことを考えたらどうか。
政府が主催するから「やらせ」への誘惑が出てくる。予想もつかない質問、批判
に閣僚たちがさらされることになれば、緊張感があっていい。

開催経費もかなり節約できるだろう。昨年度の経費は1カ所あたり平均1300万
円弱。参加者が200〜500人の規模としては高額すぎる。

「やらせ発言」は1カ月半前、国会審議の中で共産党の議員が内部資料を突きつ
けて発覚した。続いて他の野党も、会場発言者への謝礼や不明朗な経費支出が
あったことを調べ上げ、政府を全面調査へ追い込んでいった。野党連係による久
しぶりのヒットである。

公聴会や公開ヒアリングなど、政府や自治体が開く国民向けの催しには、似たよ
うな手法を使ったものが結構あるのではないか。タウンミーティングの反省をそち
らへも生かして、運営を根本から見直すべきだ。