『信濃毎日新聞』社説 2006年12月10日

教育基本法 国民の声を聴いたのか


教育基本法改正案の審議が大詰めを迎えた。政府・与党は今国会での成立を
目指し、野党との駆け引きを続けている。

参議院での審議時間は70時間を超え、地方公聴会も6カ所で開いた。しか
し、衆参の特別委員会の審議は、いじめ対策、高校未履修問題などに集中して
きた。法案そのものの論議は十分とはいえない。生煮えのまま、採決を急ぐべ
きではない。

地方公聴会も、実際を見れば法案採決に向けた手続きの色が濃い。

4日に長野市で開いた公聴会では、自民、民主、公明、国民新党の推薦によ
る4人が意見を述べた。

長野市の教育委員長、久保健氏(自民推薦)は、改正案で教育の基本的な責
任が家庭にあるとした点を評価した。

元大町市教育長で、前信濃教育会長の牛越充氏(公明推薦)は、生涯学習の
理念が盛り込まれたことを支持。生涯学習の中で自由と規律を学ぶべきだと強
調した。

「改正案は私的な領域に踏み込むもの」と明確に反対したのは、首都大学東
京の大田直子教授(民主推薦)だけだった。

審議は予定の2時間余りで終了。50の傍聴席には空席もあった。

会場となったホテルの外では、いくつかのグループがマイクを握り、「改悪
反対」「公聴会は法案を通すためのセレモニーだ」と声を上げた。会場の内と
外で、意見の隔たりは大きかった。

公聴会の内容は委員会で報告されるが、それに対する審議はない。法案採決
の前提となりがちで、「アリバイ作り」との批判もある。

教育基本法改正をめぐっては、政府主催のタウンミーティングでの「やらせ」
発言も明らかになった。

教育の根幹をなす基本法の改正に、国民の声がきちんと反映されたといえる
のか。公聴会の様子や、タウンミーティングの調査結果からは、疑問が残る。

6日には、基本法の特別委員会や公聴会で意見を述べた学者ら17人が、指
摘した問題点をほとんど論議せずに採決に進むのは問題だとして、徹底審議を
求める声明を出している。これも、実のある審議がされていないことを裏書き
する。

山梨県で開いた公聴会で早稲田大の喜多明人教授は「大人だけの論議に終始
せず、子どもたちから意見を聴取すべきだ」と指摘している。こうした視点も
尊重したい。

公聴会やタウンミーティングは民主主義の手続きの一つだ。ただ、時間も手
間もかけなければ、本当に国民の声を聴いたことにはならない。