『朝日新聞』2006年11月29日付

教育基本法 改正案成立へ
与党、来週採決の構え


安倍政権が最優先課題とする教育基本法改正案が、この臨時国会で成立するこ
とになった。与党は来週中に参院教育基本法特別委員会の採決をめざす方針を
固め、28日、野党に採決前の手続きとなる地方公聴会を行うよう提案した。野党
は審議を続けるよう求めているが、与党はずれこんだ場合は小幅の会期延長も辞
さないため、成立は動かない情勢だ。改正は1947年の制定以来初めて。教育が
「個」から「公」重視となり、国家管理色が強まる方向に転じることになる。=3面に
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◆国関与強まる流れ

改正案は「我が国と郷土を愛する態度を養う」「豊かな情操と道徳心を培う」「公共
の精神に基づき、社会の発展に寄与する態度を養う」など、「公」を重視した項目を
「教育の目標」に盛り込んでいる。伊吹文部科学省は28日の参院特別委で「地域
社会、教師、家庭をこの目標に沿って変えたい」と述べた。

また、現行法で教育が「不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任
を負って」行われるとの条文が、改正案では「不当な支配に服することなく、この法
律及び他の法律の定めるところ」により行われると改められた。これまでこの条項は、
教員側が教育行政の現場への介入に抵抗する根拠としてきたが、改正案は逆に、
教育行政に異議を唱えた教員側が「不当な支配」とみなされる可能性もある。ただ、
安倍首相は法律が改正されても「国家管理を強めることにはならない」と答弁してい
る。

特別委ではほぼ連日、1日平均6時間ペースで審議を続けている。30日には、政府
主催のタウンミーティングの「やらせ質問」や必修科目の履修漏れ問題、いじめ問題
など教育関連の問題について、特別委で集中審議を行う。来週中には、審議時間は
与党が採決のめどとしていた計70時間を超す見通しとなっている。

このため、自民党の二階俊博国会対策委員長ら衆参の国対幹部は28日、12月7日
に参院特別委で安倍首相出席で締めくくり総括質疑をしたうえで採決し、8日の参院
本会議で成立させることをめざす方針を確認。それに向け、参院特別委の与党理事
は28日、地方公聴会を12月4日に新潟、徳島など4カ所で開くことを野党側に打診
した。

一方、民主、共産、社民、国民新の野党4党は衆院での与党単独採決に抗議し、いっ
たんすべての国会審議を拒否。沖縄県知事選後の22日から審議に復帰している。

民主党の郡司彰参院国対委員長は28日、与党方針の12月7日採決について「審議の
過程で出てきた問題があり、まだ議論が必要だ」と記者団に語り、反対する考えを示し、
野党間で地方公聴会を4日に開くことには反対することを決めた。

ただ、衆院での経緯から、野党が再び審議拒否に転じることは難しく、地方公聴会の場
所には同意しており、来週中には受け入れる見通しだ。日程が多少遅れても、成立は動
かない状況だ。

しかし、採決が8日以後になると、13日まで首相が外遊するため、採決の前提となる首
相出席の締めくくり総括質疑は、会期末前日の14日となる。野党が内閣不信任決議案
を提出すると、「時間切れ」による廃案になる可能性がある。与党は、重要法案と位置づ
ける防衛庁の省昇格法案の成立時期もにらみ、1週間程度の会期延長も視野に入れて
いる。