「緊急共同声明」の趣旨説明

※「緊急共同声明」はこちら

<趣旨説明>
今回の「緊急共同声明」の趣旨説明を行い、共同声明の内容を詳しく補足したいと考え
ます。

(1)政府・与党は教育基本法「改正」案を11月15日の衆議院教育基本法特別委員会で
野党欠席のままでの強行採決という暴挙を行い、さらに翌16日の衆議院本会議でも同じ
く野党欠席のままでの強行採決という暴挙を2度にわたって行ないました。私たちは、
戦後の平和と民主主義の象徴である準憲法ともいえる教育基本法の精神を否定する政府
・与党の今回の暴挙に対して怒りを持って断固抗議するものです。
現在、いじめによる自殺問題や高校の単位未履修問題が焦点となり、教育の在り方が根
本から問われている状況において、それらの審議を尽くし今回の「改正」問題とそれら
の諸問題がどのように関連するのかを明らかにすることが、国民に対する政府・与党の
責任だと考えます。しかしながら、政府・与党は、まず「改正」ありきの前提に立ち、
教育をめぐる根本的な議論を避けているとしか考えられません。
さらには、タウンミーティングでの「やらせ」質問や謝礼金の問題が新たに発覚し、こ
れらの問題は今回の「改正」と切り離せない本質的な問題であるにもかかわらず、政府
・与党は「改正」問題とは別個に処理しようとしています。今回の暴挙は、安倍首相が
最優先課題とする教育基本法「改正」の策動が露骨に現れたものといえます。

(2)今回の教育基本法「改正」問題に対しては様々な団体が反対声明を出していますが
、学会レベルで学問的に教育基本法の歴史的・今日的意義を明らかにしている日本教育
学会(現会長・佐藤学東大教授)は、今年8月に歴代会長が発起人となる反対声明「教
育基本法改正継続審議に向けての見解と要望」<資料1>を出しており、その中で「現
在提出されている2法案(政府案と民主党案―引用者注)はいずれも廃案とし、引き続
き教育問題を広く人々の論議にゆだねつつ、現行法の精神をより豊かに発展させること
をねがうものである」と要望しています。また、東京大学基礎学力研究開発センターが
今年7−8月に行なった全国調査<資料2>によれば、全国の小・中学校の先生方は66
%が今回の教育基本法の「改正」案に反対の意思を表明しています。これらの声明や調
査結果を見るならば、今回の拙速ともいえる強行採決は、国民が望んでいる慎重審議と
は相反するものと言わざるを得ません。

(3)福井県内では福井県教職員組合と福井県高等学校教職員組合はそれぞれ教育基本法
「改正」案に反対し、慎重審議を求める運動を行なっています<資料3>。また、新聞
各社も今回の強行採決に対しては批判的であり、特に「福井新聞」の論説(11月17日)で
は、「教育基本法が通過 国民置き去り、なぜ急ぐ」という表題で、「六十年近く過ぎ
た基本法だから改正するのではなく、現行の基本法をおろそかにしてきた文科省と教育
政策を洗い直し、何が必要なのか今からでも徹底検証するべきだ。大切な“教育憲法”
の改正を国民の多くはそんなに急いでいない」と警鐘を鳴らしています<資料4>。

 (4)そもそも教育基本法は、戦後日本の民主化の過程で平和と民主主義の理念を掲げ
た日本国憲法を踏まえた「教育憲法」(準憲法)ともいえるもので、戦前の教育勅語に
かわる民主主義の崇高な理念を示しています。作成主体は当時の教育刷新委員会や文部
大臣などであり、決して占領軍に押しつけられたものではありません。

(5)今回の教育基本法「改正」案の問題点は以下の諸点にあります。
 第1は、今回の「改正」の必然性・必要性の明確な説明がなされていないことです。
戦後、憲法・教育基本法の改悪は何度も策動されてきましたが、平和と民主主義の世論
がそれを阻止してきました。今回の「改正」案には国家主義を強める安倍内閣の意図が
明確に出されていますが、なぜ今現行法を「改正」するのかの説得的な理由がまったく
示されていません。
 第2は、「改正」案には新たな条項として「教育の目標」(第2条)が付け加えられ、
国民に求められる「必要な資質」として20項目にも及ぶ価値や態度が細かく規定されて
いることです。「改正」案は新たに具体的な教育価値や教育内容を定め、それを管理す
る教育内容統制法に、現行の基本法を180度転換するものといえます。
第3は、その「目標」の一つに、「国を愛する態度」が書き込まれ、その愛国心を国家
が統制することが法的に正当化されようとしていることです。人間の態度や内心を拘束
する法律への「改正」それ自体が、日本国憲法に違反するものといえます。9月21日の
東京地裁による国旗・国歌強制の違憲判決は、まさしくそれを示すものです。
第4は、教育の自由の理念が大幅に後退させられていることです。現行法には第10条(
教育行政)に書かれた3つの理念により教育の自由の論理が明確に組み込まれています
。すなわち、@「不当な支配」の禁止規定、A「国民全体に対し直接に責任を負」うと
いう「直接責任性」の規定、B「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目
標として行われなければならない」という規定により、教育の自由の論理が明確に組み
込まれています。これに対して、「改正」案(第16条「教育行政」)は、@の「不当な
支配」禁止規定を否定し、「法律の定めるところにより」という文言を付け加えること
で法律や通達などの形で示される政府の命ずるところに従わせる規定となり、Aの「直
接責任性」は完全削除、Bの「条件整備行政」の規定も削除、という大きな問題を抱え
ています。
第5は、教育振興基本計画の根拠規定が第17条に盛り込まれていることです。このこと
は、基本計画が閣議決定されればただちにその内容が教育の場に強制されるものとなり
、政府の監視の法である教育基本法を根本から改悪し、政府の一方的な法文解釈と政策
を絶えず合理化し具体化していくための法に変質させられる危険性です。
以上の5点の問題点を踏まえれば、「改正」案は、教育と国民の思想に対する国家統制
法であり、教育の自由の原理を踏みにじり競争と格差拡大を進める現在の新自由主義的
な教育改革を正当化し権威化していくものといわざるを得ません。私たちは現行の教育
基本法の精神を活かし豊かに発展させていくことを強く願うものです。

(6)以上から、私たち福井大学教職員組合と日本科学者会議福井支部、及び福井大学
教員有志は、教育の国家統制を強める教育基本法「改正」案の廃案を求めるものです。

<資料1>日本教育学会歴代会長(大田堯・堀尾輝久・寺崎昌男・佐藤学)「教育基本
法改正継続審議に向けての見解と要望」(2006年8月)
<資料2>東京大学基礎学力研究開発センター「学力問題に関する全国調査」(2006年
7月下旬〜8月下旬実施)。回答数:小学校3102校、中学校1646校。
<資料3>福井県教職員組合は機関紙『ふくい教育新聞』(11月5日)で1975年以来の約3
0年ぶりの日教組の「非常事態宣言」(10月26日)を紹介しています。「教育基本法『政
府法案』の可決・成立は、戦後民主教育の否定、憲法改悪へとつながる。全組合員の意
思統一のもと、教育基本法改悪阻止にむけ、日教組全組合員の総力をあげて、最後まで
たたかい抜くことを決意し、非常事態を宣言する。」この宣言に基づいて、県教組は反
対運動に取り組んでいます。また、福井県高等学校教職員組合も機関紙『福井高教組新
聞』速報NO.24(11月16日)で、「自、公が採決を強行 怒りを持って断固抗議する」と
主張し、改悪反対の運動に取り組んでいます。
<資料4>「福井新聞」論説(11月17日)

<連絡先> 福井大学教職員組合(委員長・小野田信春)
〒910-8507 福井市文京3−9−1
 電話・FAX0776−21−1950
e-mail:fukuidai@sweet.ocn

日本科学者会議福井支部(代表委員・隼田嘉彦)
    〒910-8507 福井市文京3−9−1
福井大学教育地域科学部  森 透(事務局)
電話・FAX 0776−27−8725
               e-mail:mori@edu00.f-edu.fukui-u.ac.jp     
             

2−3 共同声明賛同者

賛同者人数 公表可人数
160 122
全員 公表可 公表不可
福井大学教職員 119 88 31
科学者会議 55 (重複22) 53 (重複2) 2
福井大学教職員有志 6 1 5
その他 2 2 0

注) 科学者会議の重複は、科学者会議と福井大学の重複です。