教育基本法「改正」に反対する滋賀県立大学教職員有志のアピール

 去る11月15日、「教育基本法改正案」が、与党による単独採決によって衆議院を通過
しました。現行の教育基本法は、1947年の制定以来、日本社会の幅広い構成員から支持
され、また、その内実が鍛え上げられてきました。いくつかの時代的制約を受けた限界
を内包しているとはいえ、そのような現行の教育基本法が、なぜ、このような強引かつ
拙速な手続きで、「全面的に」改定されなければならないのでしょうか。現在審議中の
改定案を見る限り、わたしたちは強い憤りを抱かずにはいられません。

 第一に、その内容の如何にかかわらず、「教育の目標」を国家が法で規定する際には
、教育の自由、思想・信条の自由の尊重の観点から、抑制的であるべきです。にもかか
わらず、改定案は、戦前の「教育勅語」に逆戻りするかのように、社会的にも異論の多
い徳目を「教育の目標」として20以上も挙示しています。国家が恣意的に解釈・判断す
る態度の「達成」を教育に求める改定案のあり方は、日本国憲法が認める精神的自由を
著しく侵害するものです。

第二に、改定案は、学問の自由・大学の自治を奪い、国家による大学の教育・研究に対
する強力な介入を可能にするものです。そこでは、大学の教育・研究は、時々の政府が
国会の審理すら受けずに策定する「教育振興基本計画」における目標・評価に従わねば
なりません。教育・研究の自由が失われるのはもちろんのこと、短期的な成果達成が金
科玉条になり、長期的な見通しをもった研究がやせ細っていく恐れがあります。

第三に、性別によって教育機会に差ができることを禁じた「男女共学」条項の削除、新
設された障害児教育条項に特に顕著にみられる能力差別的な教育の肯定など、改定案は
、これまで日本社会に生きる無数の人々が、歴史に学び、不断の努力で獲得してきた価
値や理念をないがしろにするものです。また、現在の日本の公教育が抱え、克服しなけ
ればならない差別・選別、格差をさらに強化しようとするものです。

滋賀県立大学は、開学以来、「キャンパスは琵琶湖、テキストは人間」をモットーにし
てきました。わたしたちは、自らが学び、研究する琵琶湖周辺の地域に、またここに繋
がる広い世界に多種多様な人々が存在し、それぞれの文化を育み、社会生活を営んでい
ることを深く理解し、その姿に学びながら平和で民主的な社会の形成に寄与することを
めざしています。改定案は、こうした滋賀県立大学の教育・研究理念と真っ向から対立
するものと考えざるを得ません。ここに、わたしたち滋賀県立大学教職員有志は、「教
育基本法改正案」に反対の意を表明し、同案を廃案にすることを強く求めます。

                            2006年12月3日
                         滋賀県立大学教職員有志

呼びかけ人

東幸代、面矢慎介、河かおる、北村隆子、京樂真帆子、國松孝男、小池恒夫、竹下秀子
、武田俊輔、那須光章、早川史子、藤井真理子、松田洋介、森脇克巳、八木英二、安田
寿彦、吉田一郎(合計17名)

賛同者

荒井利明、伊丹清、市川秀之、井上吉教、岩間憲治、岡本進、岡本秀己、沖野良枝、川
地武、金木亮一、倉茂好匡、黒田末壽、小島彬、小林清一、駒井敦美、佐々木一泰、沢
田裕一、清水慶昭、菅谷文則、須戸幹、高橋昭子、田中敬子、谷口義治、棚瀬慈郎、塚
本礼仁、灘本知憲、野間直彦、長谷川直子、濱崎一志、細馬宏通、増田佳昭、松本行弘
、水野章二、水原渉、南政弘、森下あおい、横田実、吉村淳一(合計38名)
                            
(以上、五十音順)
                            
(呼びかけ開始日 2006年11月29日、人数は2006年12月4日現在)