『徳島新聞』社説 2006年12月5日付

教育基本法公聴会   反対意見にも耳傾けよ


教育基本法の改正について、参院教育基本法特別委員会が地方の有識者から意
見を聴く地方公聴会が、徳島市など全国四カ所で開かれた。

政府与党が重要法案と位置付ける改正案の今国会成立は、確実とみられている。
早期成立を目指す与党と成立阻止を図る野党の攻防はヤマ場を迎え、激しさを増し
ている。

徳島市の公聴会では、政府案への賛否両論が相次ぎ、「拙速は避けるべきだ」との
意見も出た。与党は衆院で行ったような強引な採決に持ち込むのではなく、反対意
見に真摯(しんし)に耳を傾け、慎重に審議してもらいたい。

公聴会の席上、自民、民主、公明、共産の各党からそれぞれ推薦された元旧上那
賀町教育長の白川剛久氏、龍谷大法科大学院の戸塚悦朗教授、徳島文理大短期
大学部の富澤彰雄教授、徳島大の石躍(いしおどり)胤央(たねひろ)名誉教授の四
人が意見を述べた。

政府案について、白川氏は「伝統文化を教えることで国を愛する心、態度はおのずか
ら養われる」と評価した。富澤氏も「生涯学習などの理念が明記されており、社会全体
の教育力回復につながる」と賛成意見を述べた。

一方、戸塚氏は「国際人権法上、与野党案ともに不十分だ。外国籍児童の権利が保
障されていない」と懸念を表明。石躍氏は「なぜ教育が今のような事態になったのか
を整理するのが第一の仕事だ」と反対した。

政府案の焦点である「愛国心」については「国会で決めるものではない」「国家が心
の中に踏み込むことは許されない」などの意見が出され、依然反対が根強いことをう
かがわせた。

「個の尊重」を前面に出している現行法に比べ、政府案は「公共の精神」を強く打ち出
している。国家による教育の統制、介入が進むのではないかとの懸念もある。国民の
理解も広がっているとは思えない。

一九四七年に制定された教育基本法は、すべての教育関係法の根本となる「教育の
憲法」として戦後教育を支えてきた。「教育再生」を重要課題に掲げる安倍晋三首相は、
改正案を早期に成立させ、教育の抜本改革を急ぎたい考えだ。

衆院で与党は「審議は尽くされた」として与党単独で採決した。だが、教育改革タウンミ
ーティングでの「やらせ質問」や、いじめによる自殺、高校の必修科目未履修問題など
に多くの時間を取られたのが実情で、改正案についての論議が尽くされたとは言い難
い。

できる限り多くの国民の理解が得られるまで、じっくりと練り上げるべきだ。政治日程を
優先させ、採決を急ぐようなことがあってはならない。

いじめ自殺、学級崩壊、家庭や地域の教育力低下など「教育の荒廃」が指摘されてい
る。教育現場は多くの問題を抱え、教育委員会の在り方も問われている。地方公聴会
では、そうした現状を踏まえて多岐にわたる提言があった。

教育が今のままでいいはずはない。しかし、教育基本法を改正しても問題が解決する
わけではない。政府案を数の力で押し切れば、将来に禍根を残すことになるだろう。教
育現場に混乱の火種を持ち込むことにもなりかねない。

地方公聴会の意見を参院の審議に反映させ、十分に時間をかけて論議することが必要
だ。