「教育の本質」を大切にしながら国民的な議論の徹底を求める声明
2006年12月1日
日本生活教育連盟 常任委員会


 政府与党(自民・公明)は、教育基本法「改正」案を、11月16日衆議院
本会議で単独採決を強行・可決し、参議院に送付しました。「教育の本質」
に関わる十分な論議を欠いたまま採決を強行したことは日本の子どもたち
の未来に禍根を残す暴挙であり、強く抗議します。私たちは「改正」案を「廃
案」にし、「教育の本質」を大切にしながら国民的な議論を徹底することを求
めます。

1、現行教育基本法の完全実施をはかり、「いのちの輝き」を大切にする教
育を展開しましょう。
 子どもたちは将来への夢と希望に満ちた学びと成長を願っていますが、日
本の教育の現状はその願いを打ち砕くものとなっています。子どもたちは、
自信を無くし、人間関係をうまく結べずに孤立し、もがいています。こうした子
どもたちの成長と発達の苦悩と正面から向き合って「いのち輝く教育づくり」を
進めることが求められています。
 行き過ぎた競争と評価は、一部のものにしかやる気を起こさせません。それ
以上に、学校に背を向ける子どもたちを増加させます。子どもや現場の校長が
連鎖的に自殺していくような日本の教育の現状と真摯に向き合うことが大切で
はないでしょうか。
 いじめ・自殺・暴力・引きこもり等々、子どもたちに現れる成長や発達の苦悩の
中に、その原因と克服の展望を見出すことが大切です。現行教育基本法は、第
1条(教育の目的)で「人格の完成」、つまり子どもの持っている発達可能な能力
を最大限に発揮する教育の実現をめざしています。この視点からの教育改革こ
そが子どもたちの未来をつくることにつながります。
 わたしたち日本生活教育連盟に集う教師と父母は、子どもの生活現実から出
発する生活教育によって「子どものいのち輝く教育」の実践と探究を進めていま
す。「学ぶことと生きることを結ぶ」創意ある取り組みをすすめてきた教師たちの
教育実践の成果を『あっ こんな教育もあるんだ〜学びの道を拓く総合学習』
(新評論・2006年7月刊)にまとめ出版しました。初めて、「本物の総合学習」にふ
れた人は、その豊かさと深さに驚き、教育の可能性に希望を抱いています。子ど
もたちは学ぶ意味を実感したいと強く願っています。子どもたちの痛切な願いに
応える教育を日本の津々浦々から展開することが大切だと考えます。

2、子どもの生活を見つめて、自分たちの手で教育を創り出していきましょう。
 教育に直接かかわる教育研究者や教師、父母にとって、最も心配なことは、学
校から自主性や独自性・創造性が奪われることです。
 現行の基本法には、憲法の理想と教育基本法第1条の「教育の目的」を達成す
るための、学問の自由の尊重や自発的精神を養うことなどの、国がすすむべき基
本方針が書かれています。しかし、「改正」案では、「真理を求める態度」「勤労を
重んずる態度」「公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画しその発展に
寄与する態度」「環境の保全に寄与する態度」「我が国と郷土を愛するとともに他
国を尊重し国際社会の平和と発展に寄与する態度」を養うと、5つの具体「目標」
が提示されています。このことは、「目標」による管理によって学校を縛る道を開く
ことになるのではないでしょうか。
 さらに、「改正」案の16条では、現行教育基本法10条の「国民全体に直接責任
を負って行われるべきである」という文言が削除されています。このことが子ども
を真ん中に教師と父母が力を合わせて創る教育を困難にするのではないかと心
配されています。
 教育目標は、教育現場にいる父母や教師の手で立てた方が子どもの生活現実
に即して効果的であり、やる気を引き出します。教師も、子ども・父母・地域の人々
に向き合って「全体の奉仕者」としての力も発揮できます。現行教育基本法第2条
の「方針」や第10条の「教育行政」の機能を十分に生かし、子どもの生活を見つめ
て、自分たちの手で教育を作ることが大切です。

3、「教育の本質」に目を向けながら、国民的な議論を徹底しましょう。
 教育基本法は、子どもたちの未来に関わる重要な法案です。しかし、子どもの教
育を「直接国民から託されている」学校で、現場の教師たちは、どれだけの緊迫感
をもって教育基本法「改正」問題を話し合っているでしょうか。毎日の多忙化の中で
論議するゆとりもありません。そればかりか、議論することを避けさせる教育現場で
の権力的な指導もあります。また、子どもを学校に託しているお父さんやお母さんは、
大切な子どもの将来に関わる教育基本法が「なぜ」「どう」変わるのか知っているで
しょうか。国民の声を広く聞くはずのタウンミーティングでの、文科省による質問者や
質問内容の「やらせ発言」はもってのほかです。伊吹文科大臣自らが「民意の広が
りがあると言うのは適当ではなかった」と認めています。国会論議は、目の前の子ど
もたちと向き合って、教育現場で、喜び、戸惑い、苦悩している教師や父母の声を反
映しているとは言えません。
 教育は人間を育てる営みです。教育の本質にたった論理をなおざりにした採決の強
行は将来に禍根を残します。「改正」案を廃案にし、現場の声をもっと広く聴き取り、「教
育の本質」を大切にしながら日本の将来に関わる教育づくりの論議を広く起こし、徹底
することを強く求めます。