『毎日新聞』2006年12月3日付

教育基本法改正:成立目前、県内から反対次々 岩大教職員、廃案求めアピール /岩手


 ◇岩大教職員153人、廃案求めアピール

教育基本法を改正する法案が衆院を通過。参院で成立しようとしている。教育
の憲法と呼ばれる教育基本法の改正に、県内の教職員労働組合や弁護士会、
有志団体などから反対声明が次々発表されている。【念佛明奈】

「子どものためにならないと思う教育政策でも、上から言われたらやらざるを得
なくなるのではないか。それが一番怖い」と話すのは、遠野市の中学校教諭
(48)だ。

現行法では、教師は「国民」に対し責任を負うとされているが、改正後は「国家」
に対して負うことになると危ぐする。

例えば、文科省が来年4月に実施する全国学力テスト(小6・中3が対象)は自
治体に参加の義務はない。判断は各自治体に委ねられ、愛知県犬山市は「画
一的な教育につながる」と不参加を表明している。法改正で、国が責任を持って
教育を行うことになった場合、学力テストのように賛否両論ある調査が、「国の政
策」として強制的に実施される可能性もあるという。

盛岡市の中学校の教諭(39)は「愛国心」の評価が気になる。「自分の国を好き
か嫌いかは一人一人の自由な感情。法律で明言するのはおかしい」と言う。内容
だけではない。「法律になれば、文科省は愛国心についてどう評価しているか各
学校に報告を求めてくるだろう」。続けて、「愛国心を評価すること自体に疑問を
抱くことすら、『法律だから』の一言で許されなくなる時がくるかもしれない」と話
した。

岩手大学教職員の有志153人は1日、改正案の廃案を求めるアピールを発表し
た。法改正によって、教育基本法の下で確保されていた「大学の自治」が侵され
るだけでなく、大学の役割さえ変わりかねないという。同大のある教授は、「真理
を探究する大学には、社会のさまざまな動きを批判する役割がある。法案に加え
られた『社会の発展に寄与する』という役割が、解釈によっては国のために寄与
する意味と変化しかねない」と危ぶむ。

議論が盛り上がらないまま、改正案が成立する公算は大きい。ある男性教諭は
「教師も教育基本法をどう使えばいいのか分かっていなかった」と反省しながら
も、職員室で「今さら反対しても」という空気を感じることもあるという。

別の教諭は「若い世代の教師の間には、どうだっていいじゃんという感覚も多い
」と、その雰囲気を話してくれた。