『産経新聞』主張 2006年12月1日付

学納金返還訴訟 最高裁の判断を評価する


私立大学の入学辞退者が入学金や授業料として払った学納金の返還を求めた訴
訟で、最高裁は入学金を除く授業料などの返還を大学側に命じた。極めて妥当な
判決といえよう。

授業料についても、法外な違約金を禁じた消費者契約法が施行された後の平成14
年度入試以降に限るとした。また、入学辞退の申告期限を年度が替わる直前の3
月末までとした。いずれも常識にかなった判断である。

学納金返還問題はこれまで、下級審で判断が分かれていたが、最高裁判決が出
て決着がついた。すでに、多くの私大は最高裁判決を先取りする形で、授業料な
どの返還に応じている。一部で、国公立大後期日程の合格発表日(3月下旬)を
入学辞退の申告期限としている私大もある。今後は最高裁が示した基準に合わ
せるべきだ。

最高裁が大学に返還義務はないとした入学金は、入学を担保する手付金としての
意味合いを持ち、入学事務の手続きなどにかかる費用も含まれる。しかし、大学で
授業を受けない者が授業料まで払わされるのは、理解に苦しむ。最高裁は入学金
についても不当に高くならないよう求めた。浪人したくないという受験生の弱みにつ
けこむような方法は改めてほしい。

これからは、大学が入学試験などで受験生を選ぶだけの時代ではない。受験生が
選ばなければ、どの大学にも入れる「大学全入時代」を迎える。

そうした中で、大学設置・学校法人審議会は、新たにインターネットを活用して全授
業を行う4年制通信教育の「サイバー大学」(福岡市)など13大学・短大の設置を認
可する答申を出した。サイバー大にはユニークな「世界遺産学部」も設置される。対
面授業がなく、教育の質をいかに担保していくかが注目されよう。

従来の総合大学に加え、専門教育を行う単科大学、高度な専門家を養成する専門
職大学院、構造改革特区で設立された株式会社の大学など、さまざまな機能を持っ
た大学が生き残りをかけしのぎを削っている。法科大学院は、新司法試験の合格者
数と合格率で早くも差がつきつつある。

大学や大学院が優秀な受験生を引きつけるためには、本来の大学教育の中身を充
実させるべきであろう。