教育の国家統制を強化する教育基本法改正案の廃案を求める声明

 先の国会で継続審議となった教育基本法改正案の審議が10月30日衆議院
教育基本法特別委員会で再開され,11月16日に衆議院を通過,現在参議院
で審議が進められている.政府与党は今国会での教育基本法改正案の成立
を目指すと言って,情勢は緊迫の度を加えている.我々は教育に深く関わ
る東京学芸大学の教職員として,以下のような観点から教育基本法改正案
を廃案にするよう強く求める.

1.現行の教育基本法は,第二次世界大戦の反省に基づき,憲法と一体と
 なって国民一人ひとりの自主的・自律的な人格形成の営みを保障してい
 るものであり,その意義はますます増している.「改正」案は,現行法
 の根幹を180度転換し,国家による教育の統制を強化するものである.
 しかし,現行教育基本法の根幹を変更しなければならない理由はいまだ
 に十分に説明されていない.

2.政府文部科学省の提出した「改正」案は,第2条(教育の目標)にお
 いて,法律で強制すべきではない「愛国心」や「公共心」などの徳目が
 掲げられているほか,第16条(教育行政),第17条(教育振興基本計画)
 において,国が教育内容の国家基準を設定し,その達成度の評価とそれ
 に基づく財政配分を通して教育内容を事実上統制する仕組みが盛り込ま
 れている点など,大きな問題がある.

3.教育基本法は「教育の憲法」とも呼ぶべき重みをもつ法律であり,そ
 の影響は学校での教育にとどまらず,非常に広く深い範囲に及ぶ.しか
 し,国会の審議や,国民的な議論は極めて不十分であるといわざるをえ
 ない.国会において徹底的な審議が行われ,国民の前に問題点が明らか
 にされなければならない.

4.学力問題や格差問題に加えて必修科目未履修やいじめなどに関する話
 題が連日報道され,教育の問題は大きな関心を集めている.しばしばそ
 れらの問題解決と教育基本法の「改正」が関連して語られることもある.
 むしろ,現在の教育の抱えている問題は,現行法の精神が教育行政や教
 育現場において軽んじられていることに起因していると考えるべきであ
 る.

                     2006年12月1日
                      東京学芸大学教職員有志