『読売新聞』社説 2006年11月30日付

[研究費流用対策]「重くなる大学などの管理責任」


研究者の不正は所属研究機関の責任でもある。その当然のことが徹底されて来
なかった。

文部科学省が、研究費不正利用の防止策を、約1700の大学・研究機関に通知
した。

内部チェック体制の整備を求めると共に、不正が発覚した場合、大学などの対応
によっては政府の補助金を減らすなど厳しいペナルティーを科す。

早稲田大学理工学部で今夏、政府の公職にも就いていた有名教授による研究
費不正利用が発覚するなど、科学技術の現場でスキャンダルが相次いでいる。

だが、なぜ不正が起きたのか、原因を十分に追及していない大学・研究機関が
多い。再発防止策を明確に打ち出している所も少ない。

早大で不正に使われた研究費は1億円を上回るとされた。だが、金がどう流れ
たのか、管理体制に問題はなかったのか、肝心の部分が明らかにされないま
ま、教授に退職を勧告して幕を引いた。

科学技術研究には毎年3兆円以上の国費が投じられている。年に数億円もの
研究費を手にする研究者もいる。「研究費バブル」という言葉まで生まれた。

厳しい財政の中で、野放図な利用は許されない。研究者が所属する大学・研究
機関には、研究費の利用をきちんと管理する義務がある。

文科省の通知は、大学・研究機関に、研究者が実験器具などを購入した際の納
品検査や出張の事実確認を徹底するよう求めている。「不正はしない」と研究者
に誓約させることも課している。

研究者の自由と独立は、もちろん尊重しなくてはならない。研究の進展に合わせ
て、研究費を柔軟に利用できる仕組みもあった方がいい。だが、それは、厳格な
管理体制があってこそだ。文科省の通知内容は最低限のケジメだろう。

大学・研究機関は、研究施設を拡充し、その運営資金の獲得に必死だ。施設の
運営にも巨費が必要なのに、国からの直接の交付金は減る一方だからだ。

例えば国立大学には、施設整備に、昨年度までの5年間で1兆4000億円が投
じられた。これにより霞が関ビル30棟分が新築、改修された。中にはガラス張り
のホテルのような建物も見られる。

お陰で研究室は立派になったが、維持は大変だ。このため、研究者が獲得した
研究費の一部が運営費に回るケースもある。「光熱費などで研究費の半分が取
られた」という嘆きも出るほどだ。

これが、資金集めに血道を上げる現象につながっていないか。大学・研究機関の
本分は、あくまでも研究と教育だ。それを忘れてはならない。