『西日本新聞』2006年11月30日付

教育再生会議いじめ緊急提言 新味乏しく予防策なし 対策の難しさを露呈


福岡県筑前町など各地で相次ぐいじめ自殺の連鎖を絶つため、政府の教育再生
会議が29日、公表した緊急提言は、いじめをした児童・生徒に「社会奉仕」を行わ
せるよう学校側に求めるなど、毅然(きぜん)とした姿勢を打ち出したのが特徴だ。
ただ、旧文部省が10年前にまとめた報告書と重なる部分が多いばかりか、予防策
がすっぽり抜け落ちるなど、新味に欠ける印象は否めない。いじめ対策の難しさを図
らずも露呈した格好だ。

緊急提言の焦点は、いじめをした「加害者」への対応だった。当初は「出席停止」を明
記する厳しい案も浮上したが、「社会奉仕」「別教室での教育」といった対応を例示す
るにとどめた。

背景には、委員間の激論があった。ヤンキー先生で知られる再生会議担当室長の義
家弘介氏は「加害者に反省させることが先決。いじめられた子が我慢し、転校している
のは本末転倒」と問題提起。一方で「出席停止の子どもの面倒を誰が見るのか」(陰山
英男・立命館小学校副校長)など、“排除の論理”につながりかねない強硬措置に慎重
な意見も根強かった。

そもそも、学校教育法では、他の子どもの教育に妨げがあると認める場合、問題のある
児童、生徒の保護者に教育委員会が出席停止を命じることが可能だ。

ただ、暴力行為に比べ、いじめへの適用は難しいのが実情で、中学校で最近10年間に
行われた出席停止措置の理由を見ると、「いじめ」は5%程度。特に、最近の言葉による
いじめは、加害者側と被害者側がしばしば逆転しており「(別教室での教育などの措置に
ついても)国が基準をつくらなければ、現場で判断するのは無理」(義家氏)との声もある。

   ◇    ◇

「毅然とした態度で臨む」‐。1994年の大河内清輝君の自殺を受け、旧文部省の「いじめ
対策緊急会議」が翌年まとめた報告書にも、今回と同様の表現がある。ほかにも「傍観す
る行為も許されない」「関係者が一体となって取り組む」など重なる表現は多い。

今回の緊急提言には、筑前町のいじめ自殺のケースを踏まえ、「いじめを放置・助長した
教員に懲戒処分を適用する」「いじめへの取り組みを学校評価や教員評価に反映させる」
など、教員が対象の新たな内容も盛り込んだが、いじめが起こってからの対応策が中心。

教育ジャーナリストの品川裕香氏は「欧米では対人関係スキル(技術)を身につけるため
の“対立解決プログラム”などを学校教育に取り入れ、いじめが起こる前の対策を取って
いる」と指摘し、予防的観点からの対応も不可欠と訴えたが、反映されなかった。

提言で、いじめ自殺の連鎖を止めることはできるのか。塩崎恭久官房長官は29日の会
見で「国民や教育界に一石を投じたのは間違いない」と評価しながらも、こう付け加えた。
「簡単に解決するほど根が浅いとは思っていない。引き続いての努力が必要だ」

(東京報道部・浜田耕治、田代謙一)