『JANJAN』2006年11月29日付 教育基本法案の本当の大問題は振興基本計画だ みなさん、教育基本法を実際にお読みになったことがありますか。 現在の教育基本法は全11条という短い法律で、教育の目的、機会均等、義務 教育、男女共学、学校教育などについての基本的な理念を定めたものです。 現在、政府の改正案に対して国会やマスコミでもっぱら議論になっているのが、 「愛国心」です。マスメディアは話題になることしか取り上げませんが、私は今 回の改正の本当の問題は教育に対する文部科学省のコントロールの強化と 一層の中央集権化にあると思っています。じつは改正法案には「生涯学習」 「家庭教育」「幼児期の教育」「教育振興基本計画」などの新しい条項が追加さ れ、全18条へと7条分増えています。 小さな政府や地方分権に反する 最大の問題は「教育振興基本計画」です。これは、政府・与党が進めてきた小 さな政府や地方分権の流れに真っ向から反するものです。これらが、「家庭教 育」や「幼児期の教育」などとあいまって、国の関与が増大し、一層の中央集権 化が進む恐れがあります。 小さな政府や地方分権が国民のほぼ総意になっている時に、国が基本計画を 策定し、家庭教育にまで口をはさむべきなのでしょうか? 問題点を整理すると次のようになります。 【教育振興基本計画の問題点】 〔1〕文部科学省のコントロール強化(小さな政府に逆行) ― 一旦法律ができるとその運用は文部科学省の手に委ねられてしまう(大学 の法人化がいい例)。 (注1)教育基本法改正案 第17条 「政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、 教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他 必要な事項について、基本的な計画を定め……」 〔2〕地方分権の流れに真っ向から逆行 ― 地方公共団体は国に従う旨を指示している。 (注2)教育基本法改正案 第17条第2項 「地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方 公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定める よう……」 〔3〕官が家庭教育や幼児期の教育にまで介入できるようになる ― 新設される「家庭教育」「幼児期の教育」などの条項とあいまって、生涯をと おして家庭にまで教育行政が介入してくる恐れがある。 文部科学省が改正推進に回ったわけ マスコミや国会での議論が「愛国心」などに集中している間に、法案の中には 政治家や官僚の思惑が盛り込まれます。これらは、きちんとした議論を経ない まま法律となってしまうことが多いのです。かつて教育基本法改正に消極的だっ た文部科学省が、中央教育審議会で「教育振興基本計画」が答申されて以来、 改正推進にまわったのです。これが文部科学省にとって最大の思惑であること は明らかでしょう。法律は一旦成立すると官僚の手の中でどんどん膨らみ、私た ちの生活をコントロールします。教育基本法改正が将来に禍根を残すことがない よう、参議院での審議の中できちんとした議論が行われるよう私たちも声を出し ていきましょう。 【ご参考】構想日本の関連ページ ●【緊急提言】教育基本法案の本当の大問題─7条分の増加(全11条→全18 条)の中に何が隠されているか─ ●教育基本法に関するアンケート「教育基本法の改正は必要ですか?」(10/2 5〜11/12) ― やはり、意見が割れています。 ●教育に関しての過去の国会議員アンケート「国庫補助負担金などに関する改 革案について」 ― 三位一体改革の中で義務教育国庫負担金の移譲に関する議論は、国と地 方の間で大きな隔たりがありました。 (加藤秀樹) |