『北海道新聞』2006年11月26日付

クラーク博士の精神 教育基本法に結実 北大の武士道展で紹介


「大志を抱け」と説いた、札幌農学校(現北大)初代教頭のクラーク博士。そ
の教育理念を継いだ新渡戸稲造らが、弟子に託した「クラーク精神」が実を
結んだのが現行の教育基本法だった−。そんなエピソードを、北大総合博
物館(藤田正一館長)の「二十一世紀の武士道」展で紹介している。

クラークの説いた、自主自立と不撓(ふとう)不屈の精神、勤労の奨励は「フ
ロンティア精神」といった北大精神の礎となった。その理念は「新渡戸先生の
教育者、研究者そして国際人として活躍された生涯に最もよく具現されている」
(中村睦男学長)という。

新渡戸は旧制一高校長、東京帝大教授などを歴任。そこで薫陶を受けたのが、
教育基本法を起草した教育刷新委員会(一九四六年八月設置)のメンバー、
委員長の安倍能成(文部相、学習院長)ら三十八人。当時の文部省学校教育
局長、日高第四郎は「三十八人中、新渡戸先生と浅からぬ関係にあったと推定
できる方々は、八人を下らない」と書き記している(新渡戸稲造全集)。

クラークは、学生を「若き紳士諸君」と呼び個を尊重。授業に加え勤労を課し、勤
労には報酬を与え責任を教えた。それが、基本法一条「人格の完成を目指し、
(略)個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた(略)」
に結びついた。

また、新渡戸や同期の内村鑑三は、軍を批判したり、教育勅語奉読式で最敬
礼を行わなかったことで“国賊”扱いされたことがある。教育や学問が政治に
介入された苦い経験は、基本法一〇条「教育は、不当な支配に服することな
く、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」に反映され
た。

四七年三月に施行された基本法は六十年後のいま、変わろうとしている。藤
田館長は「その精神は一度も根付かないまま、改正論が起こってしまった。渦
中にいると気づきにくいが、いま歴史が動いている。戦後にようやく花開いた教
育思想が再び、国家主義に覆われようとしている」と危惧(きぐ)する。新渡戸や
内村は、どう見ているだろうか。



新渡戸の著作「武士道」にちなむ「二十一世紀の武士道−北大に通底する精神
の系譜」は二十六日まで(午前十時から午後四時)、北大総合博物館(札幌市北
区北一○西八)で。