『神戸新聞』社説 2006年11月23日付

国会正常化/教育論議をもっと深めよ


空転が続いていた国会が一週間ぶりに正常化、二十二日から参院で教育基本法
改正案の審議が始まった。改正案の与党単独採決に抗議していた民主党など野
党側が、審議拒否の戦術を転換したためだ。

統一候補で必勝を期した沖縄県知事選に敗北し、参院民主党では、論戦への復
帰を優先したいという意向が強まった。これに配慮せざるを得なかった小沢執行
部には、苦渋の決断だったのではないか。

足並みをそろえてきた社民党などから反発もでている。野党共闘の行方にも影
を落としかねない方針変更だが、選挙の結果を受けて、他に選択肢はなかった
だろう。

衆院では、必修科目の未履修やいじめなど緊急課題の論議に追われた。それ
自体、やむを得ないことだが、改正案の中身に踏み込んだ審議は十分とはいえ
ず、参院ではより本質的な議論を求めたい。

たとえば「愛国心」である。最大の焦点といわれながら、ごく自然な心の動きを、
なぜ法律に記す必要があるのか、という疑問は消えていない。盛り込まれた「公
共の精神」なども「時代に合った理念、原則を定めた」という安倍首相の答弁で、
十分な国民の理解が得られるだろうか。

そもそも、教育理念を掲げた基本法の見直しが、いまの教育が抱える問題の解
消とどうつながるのか。そんな根本的な点も論議は深まらないままである。

沖縄で勝ち、野党陣営の譲歩を引き出した与党側にすれば、大いに自信をもっ
ただろう。しかし、それが過信になって強引な国会運営に陥ってはならない。

いま学校現場で起きていることに多くの国民が危機感を抱き、対策を求めてい
る。こうした期待にしっかり応えることだ。基本法改正案の審議でも、目の前の
課題解決と結び付ける視点が欠かせない。

軽視できないのは、タウンミーティング(TM)での「やらせ質問」の扱いだ。文科
省や内閣府の働きかけは、教育基本法の改正を語る以前の根本姿勢を疑わせ
る。この問題で与党は衆院での集中審議に応じたが、こうした場でTMの実態を
徹底的に洗い直してもらいたい。

教育基本法の改正を最優先する首相だが、ていねいな国会審議を怠ったまま、
法案成立に走るようなことがあってはならない。そのことを肝に銘じるべきだ。

民主党の対応も厳しく問われる。独自の対案を出しながら審議拒否は分かりにく
いし、与党案と似た内容もある。論争を実りあるものにするには、まず、こうした点
で説明を尽くす必要があるだろう。