教育基本法改悪案の強行採決を糾弾し、参議院での慎重審議によって廃
案にすることを要求する

 11月16日、自民・公明の与党は野党4党の欠席のまま単独で衆議
院での教育基本改悪法案の採決を強行した。これは、教育基本法特別委
員会での予め採決日程を決めての公聴会開催、採決強行に続く議会制民
主主義を否定する暴挙であり、断固糾弾する。
そもそも政府案は、条文に多くの徳目を示して「態度を養う」としてい
る。国の示す規範を強制し、それに対する外形的な態度で生徒や教員を
評価することは、憲法が保障する内心の自由の侵犯そのものである。
 また、大学を含むすべての教育機関を対象にした「教育振興基本計
画」を政府が策定することになる。これは、憲法が厳しく制限する行政
の教育への介入を、下位の法律で強行することにほかならない。これ
は、専門家としての教員の自立性を奪い去り、学校の自治・自律的運営
を不可能にする。「競争」と「評価」を利用して、「規制」と「財政誘
導」によって国家目的に沿う教育を推し進めるものである。
 このように、政府案は「教育の国家統制法」であり、憲法と現行教育
基本法のめざす目的と理念を真っ向から否定し突き崩すものである。
 この法案は、先の通常国会の審議でも十分な提案説明がなされず、国
家百年の計にふさわしい慎重で十分な審議を求めた多くの国民・専門家
の声に応えていない。しかも、臨時国会における衆議院でも、逐条解釈
による検討さえなされなかった。
 一方、直面する教育問題として深刻な、子どものいじめ・自殺問題
が、政府の「教育改革」によってどう解決されるのかも解明されなかっ
た。さらに、政府主催のタウンミーティングでの政府主導の「やらせ」
もあきらかになった。これらは、政府のいう規範意識とは何か、また、
そもそも教育基本法改正の国民要求が存在するのかといった、法改正の
根本を問う問題である。
 ところが、自民・公明両党は、法案やその前提にかかわる深刻な問題
に真摯に向き合うことなく、数をたのみに衆議院で単独採決を強行し
た。しかも、参議院で与党のみで本会議を開催し、教育基本法特別委員
会の設置と法案上程を強行した。このような度重なる暴挙は、自民・公
明両党が、憲法に準ずる教育の根本法を論じ「改正」する資質を欠くこ
とを鮮明にした。また、一連の強行は安倍首相の強い指示によるものと
されるが、この暴挙は教育基本法改悪案を「教育再生の第一歩」と位置
づける安倍内閣の本性を、あらわに示したものである。
私たち日本科学者会議は、教育と学術研究の民主的発展をめざして研究
し活動してきた立場から、日本国憲法を守り、現行教育基本法に沿っ
て、平和をつくり、個人の価値が尊重され、その人格の完成をめざす教
育の実現を求めるものである。
 衆議院での審議を通じて明らかにされた政府がいう規範意識の反民主
主義性の問題、いじめや子どもの自殺の問題、「未履修」問題で浮き彫
りにされた受験対策に偏重せざるをえない中等教育のひずみなど、教育
基本法の「改正」に先立って解明・解決しなければならない問題は山積
している。私たちは、参議院でこれらの課題を慎重かつ徹底して審議す
るとともに、政府提出の教育基本法案を廃案にすることを要求する。

2006年11月22日

日本科学者会議常任幹事会