『東京新聞』2006年11月21日付

慶大、共立薬科を合併へ
08年に薬学部 協議入り合意


慶応義塾(東京都港区、安西祐一郎塾長)と共立薬科大学(港区、橋本嘉幸理
事長)は二十日、両学校法人の合併を前提に、協議に入ることで合意したと発
表した。協議が成立した場合、二〇〇七年三月に合併協定書を締結。〇八年
四月一日に共立薬科大を吸収する形で、慶応義塾に薬学部、大学院薬学研
究科を設置するとしている。 

■相互補完でメリット

両法人の記者会見によると、共立薬科大では、「単科の薬科大にできること
は限られている」として、以前から、他大学との合併が模索されていた。本年
度の薬学部への「六年制」導入や、全国で相次ぐ薬学部増設など環境の変
化の中で、二年ほど前から慶応義塾を念頭に置いた内部での合併論議が
本格化。昨年、非公式に打診し、今年十一月六日、正式に合併を申し入れ
た。これを受け慶応義塾は、二十日の評議員会で合併を前提にした協議入
りを決めた。

薬学部六年制は、医薬分業や薬害防止などで薬剤師の役割が高まってい
るとして導入され、教養教育の充実や、五カ月間の病院などでの実習が、
新たに求められた。

共立薬科大の橋本理事長は「実務実習は外部にお願いせざるを得ない。
慶応には医学部も病院もある」と合併申し入れを決断した経緯を説明。

一方、慶応義塾の安西塾長は「共立薬科大には薬剤師養成の伝統と実力
があり財政も健全。慶応義塾には医学部や文系学部を含め、連携してやっ
ていく素地がある。両方に大きなメリットがある」と話している。

文部科学省によると、四年制の学校法人同士の合併は、関西学院大学と聖
和大学が〇九年四月の合併に向けて検討を進めている以外は、最近では例
がないという。

<メモ>慶応義塾 幕末の1858年に福沢諭吉が創設した蘭学塾が母体。大
学は文、経済、法、商、医、理工、総合政策、環境情報、看護医療の9学部で、
学生数2万8012人(今年5月現在)。

共立薬科大学 1930年に共立女子薬学専門学校として創設。96年に男女
共学化。薬学部の学生数は821人(今年5月現在)。


【関連】『合併のススメ』複雑
実態は吸収『多様性なくなる』

共同記者会見で握手する慶応義塾の安西祐一郎塾長(左から2人目)と共立
薬科大の橋本嘉幸理事長(同3人目)ら=20日午後、東京都港区の慶応大で

二十日明らかになった慶応義塾(東京都港区)と共立薬科大学(同)の合併協
議入り。同大学の橋本嘉幸理事長は「単科の薬科大にできることは限られてい
る」と合併への思惑を口にした。「薬学部六年制」導入に伴い必須となった実務
実習で慶応側の病院などを活用する考えだ。双方の学生らは、大学の「生き残
り」をかけた戦略に理解も示すが、「私学再編の時代」の幕開けともなりかねず、
各私大の個性が失われるのを危惧(きぐ)する声も聞かれた。 

合併となれば慶応に吸収される格好の、港区芝公園にある共立薬科大。校舎一
階入り口付近の壁に二十日午後、慶応義塾との合併について学生に知らせる張
り紙一枚が張られた。「合併は平成二十(二〇〇八)年四月をめど」「方針が決ま
り次第お知らせするので、学生は安心して勉学に励んでほしい」。詳細には触れ
ていない。

三年生の男子学生(21)は「インターネットの『2ちゃんねる』などではうわさにな
っていたけど、本当だったんだ、という感じ」と驚いた様子。

「ちょうど卒業になるので直接影響はないが、(母体が)大きくなることはいいこと
では。ただ(慶応のブランドが加わり)『タナ(から)ボタ(もち)』と考える学生もいる
と思うが、“箱”が変わっても結局は本人の頑張り次第」という。

一方、同区三田にある慶応大学。文学部三年の宮原豪一さん(20)は「少子化の
影響で、慶応といえども生き残りに大変な部分はあると思う」と大学側の事情を推
し量る。

「悪いことではないかもしれないが、淘汰(とうた)や合併でいろいろな大学の多様
性が失われるのはいいのだろうか」とも話していた。

<解説>助成金削減 再編加速か

薬学教育で七十六年の歴史を持つ共立薬科大と“私学の雄”慶応義塾。双方の合
併を前提にした協議開始は、法人化を契機に国公立大学で合併・統合が相次いだ
のに続き、私立大学も今後、再編時代に突入する可能性を印象づける出来事だ。

この日の記者会見で、両校は、双方に大きなメリットがある合併であることを強調し
た。一方で共立薬科大が「共立薬科の名前が残るかどうかは極めて大事なポイント」
としたのに対し、慶応義塾は「共立薬科の特色を生かしながら慶応の薬学として再出
発できれば」と微妙な食い違いも見られた。

少子化が進み、希望者は全員入学できる「大学全入時代」がまもなく訪れる。政府の
骨太の方針では、私学助成について今後五年間にわたり1%ずつの削減を打ち出し
ている。

これを受け、文部科学省は来年度から、私学助成制度を大幅に見直す方針だ。定員
割れが続く大学の助成金の削減率を、五年後には二−三倍とすることを想定する。一
方で「定員減や統合などで適正規模への脱皮を図る大学」に対しては新たな補助枠を
創設。体力のない大学にとっては、淘汰(とうた)を意味することにもなる制度改正だ。

同省私学助成課は「大学にとっての長いバブルが終わり、知恵と努力が求められてい
る。地域での存在感を高めることも必要」と説明する。

再編が、各大学の特色を高めることになれば利用者である学生にとって意味はある。
一方で単なる「強者」への吸収合併となれば、教育の多様性がしぼむ懸念もある。 
(早川由紀美)