『東奥日報』社説 2006年11月18日付

今度こそ深く議論すべき/教基法改正案審議


憲法が公布されたのは六十年前の一九四六年十一月。教育基本法は、その四カ
月後の四七年三月に公布された。

憲法は国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を軸にする。教育基本法はその
三大原則を具体化し、国の考えを上から押し付けた戦時中の教育ではなく、自分
で判断できる子どもたちを育てる方向に大転換した。

戦後日本を法的に支えてきたと言えるこの二本柱について、安倍政権は、米軍の
占領下で制定されたもので古くもなった、自分たちの手で今こそ書き換えるべきだ
と公約している。

二本柱を堅持すべきか改定すべきか。どちらを選ぶにしろ、日本の針路を左右する。
国会や国民の間で慎重に考えなければならない大問題だ。

そんな重い意味を持ち、成立すれば憲法改正に道を開く可能性もある教育基本法
改正案が、国会で今行われている審議では軽く扱われている印象がある。深く丁
寧に議論すべきだ。

与党は、前の国会との合計の審議時間が百時間を超え、野党の要求通り公聴会
や集中審議をこなしたことを理由に衆院の特別委員会で採決に踏み切った。

野党は、審議が尽くされていないと反発し、委員会のほか衆院本会議での採決を
欠席した。改正案は与党単独で可決され、十七日から参院に舞台を移して審議が
始まった。

与党にすれば、首相が今国会の最重要法案とする改正案を十二月十五日の今国
会会期末までに成立させたいところ。成立しないと政権にとって大きな痛手になる。
首相の外遊前に衆院を通過させたい思惑もあった。

野党にすれば、十九日に投票が行われる沖縄県知事選に有利な情勢をつくりた
い。単独採決に誘って与党の強引さを強調づけ、四党が結束して改正案に反対し
ている姿勢を示す狙いがあったといわれる。

改正案が軽く扱われている、審議が物足りないと映るのは、こうした与野党の意図
が影響しているほか、改正案自体の本質に迫る議論があまり展開されてこなかっ
たからだろう。

いじめ自殺、未履修、タウンミーティングでのやらせ発言といった緊急に対応すべ
き問題に質疑が費やされた。それは分かる。だが、衆院を解散し、国民に賛成か
反対かを問うてもおかしくないほど重要な改正案の審議がこんな状態では困る。

与党は、参院では衆院の七割程度の審議時間をかければ採決に持ち込めると考
えているようだが、数の力を背景にした時間の論理で押し通していいのか。

野党は、徹底審議を求めているのに欠席戦術を続けるようだが、それで改正案の
どこに問題があって反対しているかを国民に伝える責任を果たせるのか。どちらに
も疑問がある。

改正案は国と郷土を愛する態度を養う、公共の精神を尊ぶといった目標を掲げ、国
家が教育に関与する道を開こうとしている。国が口を出さないよう定めている現行法
の全面改定案だ。

その改定が今なぜ必要か、改定が教育現場で起こっている多くの問題とどう関連す
るのか。与野党は、国民が知りたいそうした論点の答えも引き出す中身の濃い議論
を行ってほしい。