『東京新聞』社説 2006年11月18日付

なぜそんなに急ぐのか 教育基本法改正


教育基本法改正案の審議が参院で野党欠席のまま始まった。政府・与党はなぜ
、今国会での成立を強引に図るのか。国民の関心がようやく高まりつつある段階
で、事を性急に進めるべきではない。

安倍晋三首相は答弁で「教育再生の第一歩として教育基本法改正案の早期成立
に取り組む」と、あらためて成立への決意を強調した。

与党は「審議拒否は議会制民主主義に反する」と野党を批判し、参院に直ちに設
置した特別委で審議を進める構えだ。

民主党は参院に対案を出し直したが、他の野党と結束して「与党の数の横暴だ」
と抗議し、街頭で国民に訴える手段に出ている。

教育の憲法といわれる基本法の六十年ぶりの改正ながら、国民の関心は高くな
かった。皮肉なことに与野党の全面対決と与党単独採決の異常事態で、やっと国
民の目が基本法に向いてきた。救いといえば救いか。

首相が言うように「五十年先、百年先の国造り」にかかわる法案だ。与党単独で事
を進めていい道理はない。野党もまた、審議拒否の大義はない。

政府の教育改革タウンミーティングでのやらせ質問で、教育基本法改正案に国民
の理解が得られたとする政府説明への根拠は崩れている。参院での審議を深め、
国民の理解を得るチャンスにする必要がある。

衆院では、いじめや必修漏れなどの深刻な問題に追われた。改正案そのものの審
議は十分とは言い難い。

政府案の「我が国と郷土を愛する態度を養う」という愛国心条項について、安倍首
相はこの日「子どもの内面を調べ、国を愛する心情を持っているかどうかで評価す
るものではない」と述べた。衆院では「歴史や伝統を調べたりする態度を評価する」
と答えている。通知表による愛国心の評価について「必要ない」と答えた小泉純一
郎前首相の答弁と同じか、違うのか。内心にかかわることを強制されたり評価され
たりしないか心配する親や教師も多数いる。

また、現行法は「教育は不当な支配に屈することなく」と教育の政治や行政からの
独立を掲げる。改正案は「この法律、その他の法律の定めるところにより行われる
べき」との表現を加え、法律や政令によって国の介入に正当性を持たせている。

教育現場に根強い強制や不当介入への懸念は払拭(ふっしょく)してもらわねばな
らない。子どもと日本の未来にかかわることだ。安倍首相の「広く深く議論する」との
言葉通り、時間を惜しんではならず、今国会にこだわる必要はない。