『宮崎日日新聞』社説 2006年11月15日付

教育基本法改正案の蹉跌(さてつ)


司法試験に通り良家の娘と婚約する青年は自分がもてあそび、殺そうとする女
性へ「法律の中に愛という字はない」とうそぶく。石川達三の小説「青春の蹉跌
(さてつ)」に出てくる。

近くにいたら、絶対に友人などにしたくない嫌な男である。高度成長期、一部日
本人が持っていたおごりが表出している。実際、隣にいたらこう反論したい。教
育基本法第一条に「教育は、人格の完成をめざし、…真理と正義を愛し…」の部
分がありますよ、と。

与党は週内に教育基本法改正案を衆院通過させる方針を示す。自民推薦候補
が負けた福島県知事選に続き、沖縄県知事選の投開票が控える。参院で審議
時間を確保するため、いま衆院通過しないと法案成立できない―という事情が
ある。

教育基本法は「教育の憲法」。なぜ今、その憲法を変えなければいけないのか、
与党は国民に向けて詳しい説明をしていない。タウンミーティングは文科省の役
人による「やらせ」があったし、文科省は世界史未履修問題について4年前に調
査結果を知っていた。

いじめや未履修問題、校長から児童に至るまでの自殺など、連なる不幸の原因
究明と分析が先ではないだろうか。現行法に「教育の目的」「教育の方針」など
極めて普遍的な価値観が名文としてある。なのに、この教育現場の荒廃ぶり。
 
政府案には、能力格差と管理強化を進める文言がある。研究機関の調べでは
校長の66%が改正案に反対する。「国民の多数意思を無視した少数の横暴」。
野党をこう切り捨てた中川秀直自民党幹事長と小説の主人公が少なからず
重なった。