『京都新聞』社説 2006年11月14日付

教育基本法改正  拙速避け慎重に審議を


教育基本法改正案の今国会での成立を目指す政府・与党と野党との対立が、最
大のヤマ場を迎えている。

与党側は、十五日にも衆院教育基本法特別委員会で採決して早期の衆院通過
を狙っており、場合によっては「強行採決」も辞さない構えだ。

これに対して、野党側は審議続行を求めている。民主党は、強行採決の際には
全面的な審議拒否に入ることもあるとして与党側をけん制する。

現在は「いじめ自殺」や高校必修科目の未履修問題、教育改革タウンミーティン
グでの「やらせ質問」など、教育関係の諸問題が噴出している。

それだけに、強引に改正案を成立させたのでは、国民の納得は到底得られない
だろう。法案の中身を考えれば、拙速に走るのではなく慎重に議論することが肝
要である。

改正案は通常国会に提出され、五月から審議を続けてきた。「我が国と郷土を愛
する」と明記した「愛国心」の規定が最大の焦点である。新たに盛り込まれた「公
共の精神」の意味や「教育振興基本計画」の狙いについても疑問がある。なぜ、
今、改正しなければならないかについても説明が不十分である。

政府・与党側は、通常国会での議論を加えると審議は尽くしたとして近く特別委
で採決をする構えをとる。

これに対し、民主党は独自の対案を国会に提出して政府・与党と対立。共産、社
民両党は政府・与党案の廃案を求めてきた。野党側は政府の強硬方針に反発し
て徹底抗戦の方針を決めている。

これまでの国会審議で改正案は国民に十分理解されたのか。現在は法案をめぐ
る疑問や懸念がすっかり解消したとはいえないだろう。国会の党首討論でも安倍
晋三首相と民主党の小沢一郎代表との議論がかみあわなかった。

最近発表された東大の調査では、全国公立小中学校の校長の66%が改正案に
反対している。先ごろは日本教育学会の歴代四会長らが政府・与党案の廃案を求
める声明を発表した。

基本法改正に反対する市民レベルの動きも目立ってきた。

一方で、政府がすぐに対応すべき教育問題が続発している。連日のように若い中
高校生らの自殺が続いているのは憂慮すべきことだ。未履修問題を苦にした校長
の自殺も起きており、この異常事態に歯止めをかける必要がある。

文部科学省は子どもらの自殺をとめる方策を早急にとるべきだ。今は教育基本法
改正をめぐる議論よりも、緊急性のある諸問題の解決が先決である。あらためて
文科省の責任が問われよう。

その上で、教育委員会の役割を根本的に見直し、学習指導要領の内容を点検す
る必要がある。大学入試の改善も課題として残っている。

今は何を最優先すべき時か、政府・与党によく考えてもらいたい。