『山陽新聞』社説 2006年11月17日付

教育基本法改正 政争の具にしていいのか


安倍内閣が今国会の最重要法案と位置づける教育基本法改正案が衆院本会議で
採決され、自民、公明の与党など賛成多数で可決した。採決に反対する野党が衆院
教育基本法特別委員会に続いて欠席する中で強行した。

法案は参院に送付されたが、野党は審議拒否の構えも見せている。だが参院の与党
幹部は「与党だけでも審議を進め、十二月十五日の会期末までに成立を図る」とする。

教育は国家の根幹である。教育基本法は「教育の憲法」とさえ言われる。改正問題で
は腰を据えた活発な議論が欠かせない。こんなやり方で広範囲な国民的理解が得ら
れるだろうか。

政府の改正案が提出されたのは通常国会だった。愛国心をめぐる表現などについて
疑問が相次いだため継続審議となり、今臨時国会に引き継がれた。

採決に踏み切った与党は、特別委の審議時間は前国会と合わせ百時間を超え、十
分に議論されたとする。果たしてそうだろうか。今国会では高校の必修科目未履修、
いじめによる自殺、政府主催の教育タウンミーティングでの「やらせ質問」が次々に
問題化し、基本法自体の議論は棚上げされた形になった。

さらに衆院特別委での採決前に、自民党議員が野党議員に採決への協力の見返
りに自民党入党を持ちかけたとする問題が発覚した。買収工作のような疑いも出る
中、成立を急ぐ与党の姿勢は国民の反発を招くだけだろう。

国会スケジュールを視野に入れた強行路線といわれる。今国会成立にこだわる背
景には、改正に意欲的な安倍晋三首相の意向が大きいようだ。強引な手法でたと
え成立させても、後世まで成立過程の正当性を問われかねない。そんな法律にし
ていいのか。安倍首相の責任は重い。

民主党も独自の改正案を提出していたが、改正そのものに反対する共産、社民両
党と歩調をそろえ採決を欠席した。十九日投開票の沖縄県知事選の野党共闘を優
先したと批判されても仕方あるまい。

与党は野党が出席を拒んだ採決なら強引さが薄れ、知事選への影響は少ないと判
断したようだ。基本法を政争の具にすべきではない。将来に禍根を残すだけだろう。

教育現場に問題が山積しているのは確かだが、そもそも現行の基本法がどう関係し、
どこに不具合があるのか。これまでの国会議論で基本的な部分が明確になったとは
言い難い。政府、与党は今国会での成立に固執せず、議論を深めて幅広い合意形成
を図るよう努力すべきである。