『毎日新聞』2006年11月16日付

教育基本法:単独可決に、首相の「意向」強く働く


教育基本法改正案の衆院審議で自民・公明両党が与党単独で沖縄知事選前の特別委員
会採決に踏み切ったのは、安倍晋三首相の意向が強く働いた結果だった。仮にこのまま
採決を持ち越せば国会全般が野党ペースとなり法案の成立が危うくなりかねない、との
危機感から、採決先送り方針を転換。当面の混乱覚悟で正面突破に動いたとみられる。
【高山祐、西田進一郎】

 「機は熟した。その方針でやってください」。14日夜、特別委の与党筆頭理事を務
める町村信孝・町村派会長が首相との電話で15日の委員会採決をもちかけると、首相
は単独採決を強く支持したという。

 採決をめぐる動きには、ニつの流れがあった。沖縄知事選が大接戦との情勢から公明
党と参院自民党は、強行採決で混乱した場合の悪影響を懸念。与党は「16日に委員会
採決を行う代わりに衆院本会議の採決は週明けの21日に先送りする」との案を非公式
に民主党に打診するなどして軟着陸を探るなどした。民主党との妥協が不発に終わり、
いったんは採決先送りに傾いた。

 しかし、早期採決を探る動きも根強く続いていた。14日、国会内で開かれた自民、
公明の与党幹事長会談の席上「教育基本法案を15日委員会採決し、16日本会議採決
する正当性」と題する4枚つづりのペーパーがひそかに配られた。作成者は町村氏。「
会期があと1カ月の状況で何のめどもなく審議を続ければ、参院の質疑時間を制約する
」と単独採決を強く促す内容だった。

 明けて15日朝、国会近くのホテルで行われた与党幹事長、国対委員長、政調会長会
談で、自民党の中川秀直幹事長は「15日委員会採決、16日本会議採決」を出席者に
強く要請した。17日にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席のためベ
トナムへ出発する首相から「APECまでに何とかしてほしい」と繰り返し言われてい
たためだった。公明党や参院自民党の幹部は15日になっても慎重な姿勢を崩さず、公
明党の草川昭三参院会長が同日午前、自民党の片山虎之助参院幹事長と会った際、片山
氏は知事選後の採決日程を説明していたほどだった。しかし、野党が採決を前に欠席戦
術を取ったことから「仮に採決に踏み切っても議場混乱などでのイメージダウンは免れ
る」(自民党幹部)と判断。中川氏ら与党首脳部は「15日採決」に最終的なゴーサイ
ンを出した。