『中国新聞』社説 2006年11月15日付

教育基本法改正 当面の課題解決が先だ


いじめに絡む子どもと先生の相次ぐ自殺、高校の必修科目履修漏れ、教育改革
タウンミーティングでの「やらせ質問」。教育をめぐる大きな問題が続く中、衆院で
は教育基本法改正案の採決が取りざたされている。その前に現場の課題に取り
組むべきではないか。

いじめが原因の可能性のある子どもの自殺は、この約一カ月で四件わかってい
る。自殺を予告する子どもの手紙も連日のように文部科学省に届いている。児童
の恐喝が明るみに出た北九州市の小学校では校長が命を絶った。

履修漏れは当初、学校ばかりが批判を浴びた。しかし文科省は四年前に問題を
把握していた。同省の委託調査で大学生の16%が世界史の授業を受けていな
かったとわかったのに、当時は問題視せずに見過ごしていたのだ。

「やらせ質問」は文科省と教育委員会が組んだ芝居だった。法改正に賛同者が
いると地域でアピールする狙いだったのだろう。

いじめ問題では、命の大切さを子どもにどう教えればよいか学校や家庭が立ち
すくんでいるように見える。一方、履修漏れとやらせでは文科省の信頼は失墜
した。

衆院特別委員会もこれらの問題に大きく時間を割き、基本法自体の論議はか
すんでいる。それなのに与党には「審議は十分尽くした」と採決を急ぐ声が多い
という。とうてい理解できない。

現場が直面する問題を切り離して理念の手直しを先行させる意味があるだろう
か。現行法が一連の問題を引き起こしたとも言えまい。そもそも、今なぜ改正が
必要か―との疑問にも答えが出たとも言い難い。だとすれば、むしろ時間を十分
取って論議するのが筋であろう。

いじめや履修漏れでは教育委員会批判も活発だ。なれ合いや隠ぺい体質が引
き起こす未熟な対応に、政府からは「地方に任せられるか」との声も聞こえる。
伊吹文明文科相もきのう、教育現場への国の関与を強める考えを示した。

しかし「教育は地方で」との動きも根強い。地方制度調査会や規制改革・民間
開放推進会議は、地方分権による根本的な教育改革を提言している。国の介
入が強まると、現場は子どもの目線からさらに離れることになりはしないか。

安倍晋三首相がいつも口にするように教育は国の根幹である。沖縄県知事選
への影響をてんびんにかけての駆け引きがあるとしたら論外である。