『秋田魁新報』社説 2006年11月15日付

教育基本法改正 なぜこんなに急ぐのか


政府・与党はなぜこんなに採決を急ごうとするのだろう。衆院で審議している
教育基本法の改正案のことである。

確かに教育には難問が山積している。崩壊の危機にひんしているといっても
過言ではない。誰もが何とかしなければと悩み、焦燥感にも似た思いに駆ら
れている。しかし、だからといって、何でも改正すればいいというわけではな
い。

教育基本法も改正に踏み込むからには、同法のどこに不都合や不備があり、
どのように現在の危機的な教育状況に結びついているのかが、十分に解き
明かされなければならない。

その点、安倍晋三首相をはじめ、政府・与党の説明はまだまだ抽象的で不
十分だ。

政府・与党側の説明の趣旨は、せんじ詰めれば、家庭や地域、国を愛する
心を教えてこなかったから、規律の乱れが生じているということになる。

昨今のモラル低下に照らし合わせれば、一定の説得力を持つととらえる向
きも出てこよう。しかし、愛国心がいま、改正を急ぐのに誰もが納得できる
根拠になり得るだろうか。

政府・与党は、教育基本法と教育混迷の因果関係の検証に加え、改正が
どのように危機打開に資するかについても、具体的で説得力のある説明を
尽くしているとはいい難い。

教育基本法に全く手を触れてはならないというのではない。改正の理由が
どう考えても、いまだに明確ではないのである。このまま採決に持ち込むの
は、やはり無理があろう。

教育基本法の改正論議があまりに政治的に進められていることも大きな懸
念材料だ。

政府・与党、特に自民党は、改正の必要性を冷静に論証し訴えるというより、
結党以来の悲願達成という感情論の方に傾いているように見える。

教育は常に「百年の大計」で考えなければならない。このことの大切さは何
度でも強調されていい。しかも教育基本法は、「教育の憲法」であり、専門家
の間でも改正には賛否両論が渦巻いているのである。

「ゆとり教育」が陥ったような混乱はどうしても避けたい。改正のつもりが、結
果的に改悪だったなどということは、金輪際あってはならない。

そもそも現在の教育混迷はどこに起因するのだろう。さまざまな分析が可能
であり、実際、議論も百出している。

しかし、少なくとも確かなのは、法を変えれば解決できるほど、現在の教育問
題は生易しくはないということだ。

何より忘れてならないのは、子供は「社会や大人の世界を映し出す鏡」だとい
うことだ。凶悪犯罪の頻発やモラルの低下は子供に限った話ではない。学力
低下についても大人側が子供に自慢できるほど教養を身につけているといえ
るだろうか。

安倍政権は審議をいったん棚上げした上で、教育問題をもっと広く大きくとらえ
直し、教育基本法改正の妥当性や効果を含めて、首相の諮問機関「教育再生
会議」に諮ってはどうか。

現在の教育混迷の原因を正確にえぐり出さない限り、適切かつ有効な処方せ
んは導き出し得ないからである。